見谷昌禧のプロフェッショナルの視点 2005
6 フラッハウのスラローム
1st / Giorgio Rocca(ITA) 2nd / Rainer Schoenferder(AUT) 3rd / Alois Vogl
4th / Mitja Dragsic(SLO) 5th / Mario Matt(AUT) 7th / Ivica Kostelic
 コース・プロフィールは、中斜面の多いコースであり、コース後半に急斜面が待ち受けていて脚力がものを言う。斜面の変化へ対応するテクニックよりも、旗門構成に変化を持たせることによって難しさを求めるコース設定となった。だがこのレースを難しくしている最大の要因はコースコンディションだ。超アイスバーンで最後の選手が滑るときでもコースはほとんど掘れていなかった。その証拠として76番スタートの岡田選手が1本目で24番でゴールインし、日本チームに奇跡が起きたのである。もしかして、このレースのコースコンディションが、今シーズンで最高の堅さであったことになるのかも知れない。岡田選手は2本目もゴールしてポイントを獲得したことは幸運の一語に尽きる。不断の努力があったことの証明である。児玉コーチに運が回ってきたことも嬉しい限りだ。

 1本目のポイントは、スタートから6旗門目の右ターンがオフセットが極端に大きい上に、コースが氷状になっていたために、左スキーが下に流されての失敗が目立った。エースのボーディ・ミラー(USA)も他のトップレーサーも大勢この部分でミスを犯して圏外に去った。日本の3選手はこの部分をスムーズに滑り抜けたのが好成績に繋がったとも言えよう。コーチの指示も適切であったと思う。
 日本の選手が日替わりに違った選手が活躍することは、チーム力の向上を意味している。だがゴール前で湯浅選手が、左ターンでの内スキーで旗門を引っかけてしまったのは惜しまれる。彼の滑りの特長は、ターンを始動するときスキーを次の方向にまわし込む動きが速いことだ。バネの持ち主だけが出来る技である。

 2本目のポイントは旗門構成にあった。それは、すべての旗門のオフセットが大きく、深まわりターンの連続が要求されていた。この種の旗門では、ひとターン、ひとターンを辛抱強く丁寧に仕上げる滑りをしなければならない。速く滑ろうという選手にとっては一番やっかいな旗門構成である。2本目はスタートしてからゴールするまで我慢比べのレースであった。


 1位・ジョルジオ・ロッカ(イタリア)
 1本目2位。前回のセストリエール(ITA)で入射角を鋭く取るテクニックを習得する過程での失敗。だがさすがロッカである。入射角を微調整しての滑りでついに優勝を成し遂げた。今日の滑りには、いつもの安定感プラス鋭さを感じ取れた。2本目の単調なリズムの旗門構成に対して、小さくて早い踏み替えの動きを取り入れてリズムに変化を持たせ、スキーの走りを良くする要因を生み出していた。彼の滑りは派手さはないが正確無比で、まさに機械的な滑りだ。ビッグゲームに強さを発揮するタイプなので2月の世界選手権で活躍するだろう。歴史的に見て、谷足荷重スキーの正確な選手が、ビッグゲームでメダルを獲得している。あのアルベルト・トンバ(ITA)といえども正確なスキーをするフィン・クリスチャン・ヤーゲ(NOR)にアルベールビル五輪で敗れてしまったからである。

 2位・ライナー・シェンフェルダー(オーストリア)
 1本目、ベストタイム。彼の滑りは美しすぎる。一方では迫力に欠けるので、勝負に弱いタイプに見えてしまう。2本目はプレッシャーに負けた結果となってロッカに逆転されてしまった。バランスの良さは基本に忠実な滑りとしてはピカイチ。勝負師としての滑りにはほど遠いという見方もある。彼は昨シーズンの回転種目のチャンピオンだが、一発屋に逆転されてしまうことが多い。両足荷重スキー操作での滑りに、交互操作での踏み替えのテクニックを取り入れることによって、もっと積極的な滑りに変身するであろう。人間誰でも得手不得手があるから面白い。今シーズンのレースの中でどのようなレース展開をするか楽しみである。

 3位・アロイス・フォグル(ドイツ)
 ドイツの大ベテランで辛抱強く選手を続けている。21番からスタートしての好成績。テクニシャンだけに、スケートリンクの如く堅いコースコンディションで爆発した。長年培ったテクニック、すなわちカービングスキーのサイドカーブを利用してエッジングをシャープに仕上げ、ターン後半でスキーのひずみの反動力を利用してスキーの走りを良くすることに専念した滑りは、さすがにベテランの技を感じさせた。

 4位・ミチャ・ドラグシッチ(スロベニア)
 24番スタートから1本目4位のスーパーラン。久しぶりのスロベニアチームの活躍だ。2本目もプレッシャーに負けずにゴールイン。スロベニアのスラロームチームの救世主になった。脚力が強いタイプのようで、突っ込みの良い滑りで今後に期待したい。

 5位・マリオ・マット(オーストリア)
 このレースでは大きなミスもなく、1番スタートの好条件を利用出来て満足であろう。今シーズンのレース展開を見ていると、持ち前の積極的な滑りで、一発決まれば上位に顔を出すだけの実力は復活している。今季のスラロームでトップ7名に初めて入ったレースで、持てる力を発揮しての好成績は、今後のレースに大きな自信になったであろう。

 7位・イヴィツァ・コステリッチ(クロアチア)
 ようやく調子が上昇してきた。怪我の回復と相談しながらレースに参加しているのであろう。テクニシャンだけに、他の選手が苦労するコースで実力を発揮した。


 佐々木選手は1本目コース前半、6旗門目の右ターンでミス。その後の滑りは本気モード。2本目、リズムに乗りきれなかったのであろうか。平凡なタイムで10位。タイムが伸びなかったのは何故か。日本の佐々木ファンは、今度こそ表彰台間違いなしと思ってテレビに齧り付いていたであろう。レースとはこのようなことが間々あるもの。本当の理由は本人のみが知る。この悔しさを次のレースで爆発してほしい。

 ボーディ・ミラー(USA)がセストリエールのスラロームで優勝して、今シーズンアルペン4種目すべてに勝ち絶好調である。だがミラーといえども悩みはあるはず。このフラッハウのレースでは、1本目のゴール前の急斜面で、左ターンで右スキーを踏み外してのコースアウト。
 ミラーのテクニックの特長は、踏み替えの動きを使って、エッジを素早く切り替え、スキーをフォールラインに向けながらスキーを走らすところにある。この踏み替えの動きを使ってのテクニックにも欠点がある。両スキーが揃ってしまいエッジングの瞬間に、谷スキーのインサイドエッジで雪面を正確にキャッチ出来なく、身体全体がターンの内側に倒れて内傾オーバーで転倒してしまう現象が生じる。この現象は少しでも早く滑ろうとするところから生じるのである。対処法は、スピードに乗ったときに両スキーが揃ってしまう動きを意識して、自らワイドスタンスに動きを切り替えることを意識する以外に方法はない。
 このように、滑る動きを適材適所で切り替えることが出来るようになったとき、本当の意味でのミラーの時代到来と言えよう。アメリカのビーバー・クリークの大回転レースの失敗も同じ現象であったことでも納得して頂けると思う。