スキー情報総合サイト スキーネット:SKINET

HEAD JAPAN REBELS 日本から世界の頂点へ 挑み続ける反逆者たち

日本選手権ではエースとしての滑りを垣間見ることができた

ヘッドスキーとともに世界で戦う小山陽平。小山に追いつけ追い越せと、挑み続ける日本のヘッドチーム「HEAD JAPAN REBELS」の選手たち。小山の今シーズンを振り返るとともに、日本のREBELS(反逆者)の活動をレーシングディレクターの佐藤浩行に聞いた。

霧の中であがき続けた 日本のエース・小山陽平

 ワールドカップにおけるメーカー別ランキングでトップの座に君臨し続けるヘッド。2022/23シーズンはダウンヒル、スーパーGの高速系はもちろん、スラロームでもランキング1位を勝ち取り、「ヘッド・ワールドカップレベルズ」が世界のトップ・レーシングシーンで暴れまくった。一方で日本のヘッドチーム、「ヘッド・ジャパンレベルズ」も着々とチーム力を上げてきた。11年前に現在の体制をスタートさせて以来、草の根的な活動で才能を発掘し若い世代の強化に取り組んできた。その中から世界へ羽ばたいていった選手が小山陽平だ。

 小山は19/20シーズンからワールドカップに本格参戦し、スラロームデビュー2戦目の1本目を22位でクオリファイ。翌シーズンにはマドンナ・ディ・カムピリオ(イタリア)でスーパーランを披露し堂々の8位入賞、続くアデルボーデン(スイス)でも26位ときっちりポイントを獲得し、日本のエースに成長した。

 しかし今シーズンの小山は、晴れそうで晴れない霧の中で我が道を探し続けた。21/22シーズン後半を離脱する原因となった足首の蜂窩織炎(ほうかしきえん=皮膚の深い層に細菌が侵入して起きる炎症)も癒え、フィジカルトレーニングも問題なくこなせたという。秋にはシーズンに向けた準備は順調に進んでいた。本人も「ワールドカップの初戦が12月初旬にあったのですが、そこまでは自分もスタッフのみなさんも本当に納得がいく滑りができていました。昨シーズン以上のパフォーマンスが確実に出せていたので、自分自身、この滑りをすれば間違いなくリザルトを残せると期待していました」と開幕が待ち遠しかったという。

 しかしふたを開けてみると、トレーニングでの滑りがレースで出せない。「ポジションが安定しなかったり思いどおりのラインで滑れなかったりというレースが続きました。2月初旬まではレースがたくさんある時期ですが、トレーニングしてレースに出て、『こうでもない、ああでもない』を繰り返し、『この技術は本当に合っているのか』といろいろ考えながらの苦しい時期でした」と振り返る。

 スラローム37位で終えた2月中旬のクーシュベル世界選手権(フランス)後は、切りかえとFISポイント獲得のために帰国しファーイーストカップに参戦。結果的に今シーズン最も良いポイントを得たのがこのシリーズだった。その後のヨーロッパカップでは1桁の数字も残し、今シーズンの中では一番の内容だったという。そのヨーロッパカップで、今シーズンの海外レースは終了。「リラックスして滑れた」という糠平のFISレース・ジャイアントスラロームで優勝。直後の全日本選手権スラロームでは2本目でコースアウトしたが、1本目は2位とエースとしての滑りが垣間見えた。自身も「2番で折り返した以上は攻める選択肢しかなかったので、結果的にはコースアウトしてしまいましたが、それはそれで来シーズンへの糧にしたいです」と前を向いていた。

 23/24シーズンのスタート時には30番以内にいるという目標を立てて臨んだ今シーズン。「パフォーマンスを完全に出せたうえで届かなければ『よし、頑張るか』と切りかえられるのだと思いますが、30%も出せない状態で結果も出ず、フラストレーションがたまったシーズンでした。来シーズンの目標については、くどいようですが、トップ30にいること、コンスタントにトップ30に入ることを目標に集中してトレーニングしていきます」。霧を吹き飛ばし、自らもそしてわれわれアルペンレーシングファンにもスカッと晴れた空を見せてくれることに期待したい。

練習量の少ないジャイアントスラロームにも出場
小山の視線は世界を見据えている
サービスマンは5人体制で全国のレースをフォローして回る
メガチームとなったジャパンレベルズを統括する佐藤浩行

ジュニア、シニアともレベルズが全国で活躍

大学3年時に就職するか迷ったが、ヘッドチームに入りスキーを続けることにしたという佐藤竜馬。全日本選手権は2種目で入賞し調子の良さを見せた

 「ヘッド・ジャパンレベルズ」の現在の登録選手はシニア、ジュニア、パラアスリートを含めて約230名。今や国内最大規模のファクトリーチームとなった。「メーカーの一員ではありますが、根っこにはレーシングを志す選手たちの夢をかなえてあげたい思いがあります。僕の夢ですしね。そのためにはできるだけ良い環境を多くの選手に提供し、一緒に頑張っていこうと提案するのが僕の役目です」と話すのは、大所帯をまとめているレーシング・ディレクターの佐藤浩行だ。

 チームの最大の特長は、全国に張り巡らせたネットワークにより、通年でバックアップ体制を敷いている点だ。

  「ジュニア世代を底上げするために、4年前に滝下靖之コーチに参加してもらい、さらに橘井健治トレーナーにも加わってもらいました。滝下コーチは世界で戦った経験が豊富ですし、若い世代の育成に力を入れていました。橘井トレーナーはナショナルチームのフィジカルトレーニングとコンディショニングに携わってきた経験を持っています。彼らがプログラムを作り、それを各地にいるオピニオンコーチとSNSやメールで共有することで、チームとしての共通メソッドで強化に取り組めるのが強みですね」

 シーズンが終わる4〜5月にスキーのテストを兼ねたキャンプを行ない、雪が消えてからは陸上トレーニングの合宿。夏から秋にかけてのピスラボゲレンデを利用した合宿を経て海外、あるいは北海道でキャンプを行ない、シーズンを迎える。

  「合宿はチーム単位で動くことで互いに顔見知りになり、とくにジュニアは全国大会に行ったときに精神的に楽に戦えることも狙っています。ピスラボでは、本来は最初の雪上で行なう基礎的なトレーニングをしますが、その後の雪上ではフリースキーを2日ほどやったらすぐにゲートには入れるので、とても効率が良いんです。ですからサービスマンも同行してもらい、選手のクセなどを把握してもらっています。また、技術選準優勝の奥村駿選手や技術選の選手で国体でも優勝した山田椋喬選手にも手伝ってもらい、基礎スキーの技術も取り入れています」

中学生タイトルを総なめ、1年生でインターハイを制した大西美琴は期待の成長株
野澤雪丸はインターハイで激闘を見せた
チームに入って成績が出るようになった鎌田宇朗も高校2年生という

 シーズンを迎えると、選手たちはそれぞれにレースに出場することになるが、大きな大会の前にはヘッドチームとして合宿を行なっている。

  「シニアはFECジャパンシリーズと全日本選手権、ジュニアは全国中学とインターハイの前ですね。これは一昨年辺りから始めたのですが、てきめんに成績が伸びてきています。全国中学に関しては野沢少年スキー大会に出場しながらの合宿なので、コースにも慣れて良い成績が出ています。今年は男子スラロームでブイチック龍馬選手が優勝、女子はジャイアントスラロームで6人、スラロームで5人が入賞で大活躍でした。また、インターハイでは男女ともに両種目で表彰台。女子スラロームでは1年生の大西美琴選手が優勝、切久保絆選手がジャイアントスラロームに続いて3位表彰台。切久保選手は全日本選手権でも4位と堂々たる成績を残しています」

 また、事前合宿の対象ではないが、各地で行なわれたジュニアやユースの選手権、ジュニアオリンピックでも表彰台を含む大量の入賞者を輩出。10年を超えるヘッドチームのサポート体制で育ってきた選手が、花を咲かせるようになってきた。シニアも男子では佐藤竜馬がFECジャイアントスラロームで総合3位、全日本選手権で同種目4位、スラローム5位と調子の良さを見せ、ベテラン大越龍之介もスラロームで4位と存在感をアピールした。女子も畠中悠生乃がジャイアントスラロームで6位入賞、石塚結が両種目でトップ10に入った。

  「レースの結果はオピニオンコーチやサービスマン、県連や学校のコーチが写真とともにSNSで共有しています。選手たちのモチベーションにもつながりますし、彼らが活躍することでヘッドスキーを使ってみたい、ヘッドチームの一員になりたいと思う選手が増えてくれるといいですね」

チームのベテラン大越龍之介はアルペンとスキークロスの二刀流で戦う。全日本選手権ではGS11位、SL4位と健在ぶりをアピールした

チームスタートから11年余。
着実に成果を上げ存在感をピステで示す 「REBELS Family」

FECジャパンシリーズを共に戦ったアスリートとサービスマン。「ヘッド・レベルズ・ファミリー」を象徴するシーンだ
全日本選手権女子GSで4位入賞の切久保絆はこのとき高校3年生。中学1年からチームに入り成長してきた
畠中悠生乃(左)が得意のGSで全日本選手権6位入賞。切久保とともに表彰を受けた

写真・文:眞木 健