「フィットする」とは、ただ足を締めつけることではない。
ブーツと足が、なじんでひとつになる──それが本当のフィット。
痛みもない、窮屈でもない、むしろずっと履いていたくなる。
そんな心地よい一体感を生み出す、超一流のラッピング。
ぜひ体感してほしい。
オンピステ用ハイパフォーマンスブーツ「RC4」シリーズの、ミディアムボリューム(MV)の4つのモデルにBOA(ボア)フィットシステムを搭載。右の「RC4 PRO MV」を除く3モデルは、いずれもバキュームフィット対応となっており、相乗効果で精密なフィットが期待できる
¥176,000(税込)●サイズ(cm)=23.5/24.5-27.5●フレックス=140※限定モデル ※バキュームフィット非対応
¥154,000(税込)●サイズ(cm)=25.5/26.5-28.5●フレックス=130※バキュームフィット対応
¥137,500(税込)●サイズ(cm)=25.5/26.5-28.5●フレックス=120※バキュームフィット対応
¥132,000(税込)●サイズ(cm)=22.5/23.5-25.5●フレックス=105※バキュームフィット対応
バックルではなくダイヤル式で固定する、全く新しいタイプのスキーブーツが、来季、さまざまなメーカーから登場する。第一・第二バックルの代わりにあるのは、太いワイヤー。確かに快適そうではある。でも、どこか心もとない──それが、大方のスキーヤーの正直な印象ではないだろうか?
スキーは何しろ足元が不安定。それだけに、バックルでしっかり締めて固定しないと、バランスが取りにくい。ともすると、パフォーマンスに影響してしまう──それはもう、スキーヤーの常識だ。よりハードな条件で滑ろうと思えばなおのこと、バックルをきつく締め、圧迫してガッチリと固定する。その〝当たり前〟が近い将来、過去のものになるかもしれない──そういったら、大げさだと思うだろうか。
「BOAフィットシステム」(以下、ボア)は今、ゴルフやサイクリングなどさまざまなスポーツシューズに搭載されている。ダイヤルひとつでフィットできる利便性から、「簡単・便利」といったイメージが強い。しかし実際にそれを愛用しているのは、エキスパートユーザーが中心。便利で扱いやすいだけなら、エントリーユーザーに好まれそうだが、それをプロアスリートが、好んでチョイスしているのである。
利便性や快適性は、もはや当たり前。用具の性能をいっそう高めてくれるシステムとして、ボアはさまざまな分野から、熱い視線を注がれるようになった。機能性にしっかりとフォーカスし、プレーヤーのパフォーマンスを強力にアシストする。そんなシステムが、いよいよスキーブーツに搭載されたのだ
それはどんなブーツなのか? 以下は、ボアが搭載された「RC4 130MV」を履いた高瀬慎一のファーストインプレッションだ。「持った感じはとても軽い。履くと想像以上にしっかり締まる。それも一気に締まるのではなく、少しずつ、包み込むように」
まさにこの〝包み込む〟というのがダイヤル式ブーツの最大の特徴。上から押さえるのではなく、かかと方向へと引き込むように、足全体をラッピングする。だから、ブーツの中で足が極端に圧迫されることなく、でもヒールはしっかりとホールドされる。これが、絶妙なフィット感を生むのだ。
この「圧迫せずに全体を包み込む」ことがいかに大切か。一流レーサーのブーツの履き方を見れば、よくわかる。彼らは、バックルをいきなりきつく締めることは、絶対にしない。自らの手で、シェルを円く均等に包み込むように重ね合わせながら、バックルを一つひとつ丁寧に締めていくのだ。なぜなら、それがパフォーマンスに直結するから。足首が思いどおりに使えて、ブーツ本体の構造も維持され、きれいにフレックスして効率よくパワーが伝わる。用具の性能を損なうことなく、パフォーマンスを出し切ることができるのである。
とはいえ、このような緻密な履き方が誰にでもできるわけではない。ボアが画期的なのは、それを「ダイヤルひとつで」できるようにしたこと。実に0・25ミリという微細な単位で、より精密に、しかも簡単に──。これはもう、革命というほかないだろう。
もともとスノーボードブーツからスタートし、さまざまな分野の製品を開発してきたボアテクノロジー社。その経験値をもってしても、スキーブーツ用の製品開発はハードルが高く、7年もの歳月を要したという。硬いプラスチックシェルをしっかり締めて、かつハードな使用にも耐え得るものにすることは、ボア社にとっても大きな挑戦だったのだ。
テストを繰り返した末にようやく完成したのは、従来のものから飛躍的に進化した、新しいボア。ワイヤーは、実に245㌔もの引っ張り強度に耐えられる強さに。そしてダイヤルも、逆回転して緩める調整が可能になった。過酷な条件下でテストを重ねているので壊れることはそうそうないが、万が一破損しても交換パーツを無償で提供してくれる保証制度もある。ブーツ本体が壊れない限り、保証の対象だ。
アメリカ本社の研究施設では、このシステムがプレーヤーのパフォーマンスにどう影響するのか、具体的なデータを取っている。その結果、ボアを搭載したブーツが従来のバックルブーツよりも高いパワー伝達性を発揮することも、明らかになっているという。
この革新的なテクノロジーに敏感に反応したのがフィッシャーだ。もともとフィッシャーには、「バキュームテクノロジー」という、独自のフィッティング技術がある。それはシェルを丸ごと熱成型し、一人ひとりの足型を3Dで捉え、そのかたちに高精度でフィットさせるもの。まずはブーツ自体を精密にカスタマイズし、さらにボアでしっかりと密着させる。〝鬼に金棒〟ともいえる精密フィット(※PROモデルを除く)が、両者のコラボレートで実現したのだ。
その感触を、高瀬は次のように語る。
「楽なブーツは往々にして弱かったり、遊びが出たりする。でもボアのブーツは、そこが全く違う。楽なのに実際には結構タイトで、高速でもしっかり滑れる。今までのバックルブーツでは経験したことのない、初めての感覚です」
快適さを取るのか、それとも機能を取るのか。そんな2択の時代は今まさに、終わりを告げようとしている。
さて、ここからはフィッシャーのスキーについて、今季のトピックをお伝えしよう。フィッシャーといえば、何と言ってもレーシングスキー。そのエッセンスが注ぎ込まれた看板モデル「RC4シリーズ」に、今季は新しいオールラウンドモデルが加わった。現行では「RCS」が唯一のオールラウンドスキーだったが、今季は「POWER TI」と「POWER」が仲間入り。チョイスの幅が広がっている。
じつはこの3つのモデル、いずれもサイドカットは共通。いわゆる寸胴なオールラウンドスキーと違って、センター幅68㌢とほどよくシェイプされ、カービングで大回りも小回りも自在に楽しめるところが共通点だ。中の構成材に違いを出すことで、技術レベルや体力によって最適なチョイスができ、選びやすいラインナップとなっている。
中でも上位機種が、今季も継続の「RCS」。シェイプドTIという、部分的にくびれたチタンシートが組み込まれ、安定性が高く、一台でいろいろなターンを楽しみたい上級者や1級を目指す人に適した一台だ。
これに対して、23/24ニューモデルの「POWER TI」は、RCSよりも細身のチタンシートが組み込まれている分、より軽量で、取りまわしがしやすいのが特徴。さらに、もう一つのニューモデル「POWER」にはチタンシートがなく、芯材もより軽量なものが採用されている。いっそう軽く、扱いやすいモデルだ。
この3つがラインナップされたことで、中級スキーヤーには敷居の高かったRC4シリーズが、より幅広いスキーヤーにとって身近なスキーに。とはいえ、それはあくまで名機RC4の流れをくむモデル。そこには一般的な中級モデルとは、ひと味もふた味も違う魅力があることも強調しておきたい。
高瀬慎一が、「POWER TI」を試乗して語ったのは、そこに秘められたポテンシャルの高さ。「チタンが入っている割に軽い印象。でも乗ってみると意外なほどしっかりしていて、安定感があります。もし技術選で3台使えるなら、これをコブに使いたい。いいスキーだと感じました」
RC4の魂がしっかり引き継がれた、これまでにない中級モデル。その魅力は、一度乗ればすぐにわかるはずだ。
¥151,800(税込)●サイズ(cm)=155、160、165、170●サイドカット(mm)=116-68-100●ラディウス(m)=14.5(165cm)
トップからテールまで一面にチタンシートが入ったモデル。芯材は硬めのビーチと軽くて柔らかいポプラをミックス。3機種では最も安定性が高い
¥133,100(税込)●サイズ(cm)=155、160、165、170●サイドカット(mm)=116-68-100●ラディウス(m)=14.5(165cm)
細身のチタンシート「POWER TI」が組み込まれたRCSの軽量化モデル。セパレートタイプのビンディングで、より取り回しがしやすくなっている
¥116,600(税込)●サイズ(cm)=155、160、165、170●サイドカット(mm)=116-68-100●ラディウス(m)=14.5(165cm)
3機種の中では唯一、チタンレスのモデル。ウッドコアも軽く柔らかいポプラが使用され、ビンディングもセパレートタイプ。最も軽く、扱いやすい
写真:石橋謙太郎(studioM)=スタジオ、黒崎雅久=雪上 / 文:佐藤あゆ美 /撮影協力:奥只見丸山スキー場
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