奥村駿×青木哲也 テクニカルセッション
インタビューレッスン

名手といわれる人は、それぞれに自分の個性、その武器となるものを持っている。一方で名手たちは、常に自身に足りないものを追い求め、自らの技術に、さらに磨きをかけている。
第63回技術選で悲願の初優勝を果たした奥村駿が白羽の矢を立てたのは、同じ技術選で活躍するベテラン選手、青木哲也だ。相手にはあって、自分にはないものは何か? それはどうしたら手に入るのか? 2人のトップスキーヤーによるセッションから、それぞれが持つ「うまさ」の真髄に迫っていく。
唯一無二のタッチ感。この繊細な技術をもっと知りたい(奥村)

「うまい」ということと、「技術選で強い」ということは、少し次元が異なるように思います。「うまい」というのは、どこの国の人が見ても、どの時代の人が見ても、やっぱり「うまい」。僕は選手として毎年、技術選に出ていますが、大会での強さとは別に、一人のスキーヤーとして、最終的にはそんなうまさを表現できるようになりたいと思っているのです。
では、その「誰が見てもわかるうまさ」を備えているスキーヤーは誰か?といったときに、僕が真っ先に思い浮かぶのは、青木哲也さんです。どんな斜面でも、どんな状況でもしっかりと合わせてスキーをコントロールする、そのタッチの繊細さ、動きの滑らかさは、唯一無二だと僕は思う。もちろん、そういったコントロールのできるスキーヤーはたくさんいるけれど、哲也さんは、その精度が抜群に高いのです。
一方で、それは僕に足りない部分でもあります。僕らは選手として、何かを表現するために、何かを増やしたり、ときに何かを減らしたりする。でも哲也さんは、すべてがバランスの整った状態で高いレベルにあるから、どんなことでもできそうな気がする。あのうまさ、繊細な技術はどうやってつくられているのか? それを知りたくて、今回は僕からオファーを出しました。
一緒に滑ってみて、改めてわかったことは、哲也さんと僕は、滑りの考え方がかなり近いということです。だからこそ、あのうまさに共感できるのかもしれない。雪上での時間を通してたくさんのヒントをもらい、自分にできること、足りないことがまだたくさんあることを、改めて感じた。もっとうまくなりたい、そんな思いが、さらに強くなりました。
一つひとつの動作がスムーズにつながっていく

──お二人がこうして一緒に滑るのは、今回が初めてだそうですね。
奥村 そうなんです。哲也さんは、技術的に自分にないものを持っているスキーヤーだと思っていて、でもなかなか滑れる機会がなくて。今日は大雪の影響で足場があまり良くなかったけど、むしろこの状況で、哲也さんのうまさが出ていましたね。
青木 いやいや、けっこう苦戦したよ(笑)。駿、うまく滑っていたよ。
──うまさが出た、というのは?
奥村 なかなか言葉にはしづらいのですが、スムーズというか、滑らかなんですよね。特に、切りかえから捉えるまでのところが。僕も含めて若い選手は、けっこうガツンと角を入れていくけど、哲也さんはそこが途切れ途切れにならないんです。気がついたらもう捉えていて、一つひとつの動作が止まらずに、スムーズに流れていくような。あの絶妙なタッチ感って、なんなんですかね……。
青木 なんなんだろう(笑)。意識としては、外脚を強くとか、内脚が強くとかではなく、どの局面でも常に左右の荷重バランスが50対50(フィフティフィフティ)の状態でいたいと思っているんだよね。そういうところで、スキーの真ん中にいられるのかな。

奥村 確かに哲也さんの動きって、前後も左右も、常にセンターが取れている感じですよね。特にショートターンは、切りかえて捉えていくときの繊細な使い方が、抜群に出ていたと思う。あれって、自分としてはどれぐらい方向づけをしている感じなんですか?
青木 今日みたいな雪だとそこまでやらないけど、普段は切りかわったら90度くらい変えていくイメージで滑っている。駿はどんな感じ?
奥村 僕もスキーを振る動きのイメージはあるんですが、そのずらしの意識としては、ターン前半に捉えたら、トップ側が食い込んでいって、テール側が外へ出ていくような感じなんですよね。だからピボットではなくて、トップを支点にテール側を押していくイメージです。スキーがフォールラインを向くくらいまで。
青木 自分は逆に、スキーの回転軌道をイメージしながら、その回転軌道をブーツが通っていくよう意識で滑っているんだよね。ブーツを中心に、トップとテールが動く量をそろえるような感じで。
奥村 その、スキーの方向を変えていくときというのは、角はあまり立っていない?
青木 立っていない。あくまで、「スキーの向きが変わった結果、角が立っている」というイメージなので。自分から立てにはいかないかな。
奥村 なるほど。そこが滑らかさにつながるのかもしれないですね。
青木 タッチがいい、というのは確かによく人に言われるんだけど、でも自分は逆に、強さが足りないと思っているんだよね。駿が持っているような。
横移動が速く、ターンスピードも速い

──青木さんは、奥村さんの滑りに対して、どのような印象を持っていますか?
青木 僕は、駿の滑りを初めて見たときのことが、すごく印象に残っているんです。少し前の話になりますが、まだ駿が技術選にデビューする前、コロナで大会がなくなった年(2020年)に、八方で、選手を集めてみんなで滑ったときがあったんです。そこに駿が来ていて。
奥村 あれは、スキーグラフィックの撮影のときですよね? 僕はまだ技術選に出ていなかったから、すごくアウェー感がありました(笑)
青木 あの日は雪が悪くて、みんな苦戦していて。みんなスキーが逃げていたのに、駿は一人だけすごいスキーを踏んで、キュンキュンきていたんですよ。柏木さん(柏木義之)とリフトに乗りながら、すごいヤツが来たって。これはいつか絶対、優勝するだろうって話していたんです。
──そうだったのですね。
青木 あれから、実際にデビューしたのはその2年後の八方だったよね?
奥村 そうですね。翌年の苗場はけがで出られなかったので。
青木 確かウサギ平のショートで種目1位を取ったと思うけど、あの滑りは、衝撃だったよね。あの斜面をああいうふうに滑るって発想が、僕らにはなかったから。
──ああいうふうに滑る、というのは?
青木 僕らはウサギ平みたいな急斜面では、ターン前半にスキーをずらしてコントロールするけど、駿は最初からしっかり角を立ててくる。もちろん、そのなかでもずらしてはいるんだろうけど、そのずらし方が違うというか。谷回りから角を立てて、そこから長い軸を使ってしっかり面を押してくるんです。駿がすごいのは、その「角を立てて、面を押せる」ところだと思う。
──角を立てて、面を押せる。
青木 角を立てて、その角を押さえるのではなくて。深い内傾角を取った状態から、スキーの面に向かってまっすぐに押してくる。だからたわみを引き出して深いカーブが出せるので、ターンが深くて、しかも速いんです。下から見ていても、ターンからターンへの横移動がものすごく速いですよね、駿は。
奥村 そのあたりは自分でも、かなり意識しています。内傾角の深さとか、横移動の速さというは、自分の武器だと思っているので。

青木 最近の選手のショートターンを見ていると、スキーを下に向けるのがちょっと早いのかな? と思うんです。駿も早いんだけど、一回スキーが外に出ていってから下に向けてくるから、横幅がすごくある。そこはほかの選手との大きな違いで。そこで、スキーが前に抜けないのが、すごいと思う。スキーを外へ出すと、どうしても身体が遅れたりするけど、駿は絶対に遅れないから。
奥村 その、ターンの横幅を広くしていくときに、だいたいの人は、ターン後半に少し引っ張るような動きを使うと思うんです。でも僕はむしろ、ターン後半は早く終わらせて、谷回りに早く入っていきたい。その谷回りの時間があるからこそ、角が深まってくると思っているので。
青木 そうだね。駿は、誰よりも谷回りがある。
奥村 そこは人との違いなのかなと、自分でも感じています。でも哲也さんもそこは似ているというか、しっかり谷回りをつくってスキーを動かしていますよね?
青木 そうだね。でも、駿よりも自分の使い方のほうが、角が出るのに時間がかかると思う。駿はトップがしっかり入って角がパチッと決まるんだけど、自分はそこで、ぐーっとまだ動かしているから。今日みたいに雪が荒れているときには、僕みたいな滑り方は有効だと思うけど、カービングって考えたときには、ちょっとルーズな時間が長いのかもしれない。
曲げるのも、伸ばすのも結果的にそうなっていく

奥村 こうして話していると、基本的に考え方はかなり近いですよね。
青木 そうだね。「スキーの面をまっすぐに押す」という部分は特に、自分と共通しているなと思う。でも駿の「角の深さ」というのは僕にはない部分なので。もっと内傾角を取って、雪に近づきたいんだよね。
奥村 そこは自分でも、演技としてすごく意識しています。
青木 いや、かっこいいんだわ(笑)。駿は、切りかえるときは曲げ? それとも引き込む? 脚を曲げながら切りかえるのか、それとも伸展しながらなのか。
奥村 切りかえで自分から脚を曲げるとか、伸ばすとかっていう感覚はないですね。なんだろう、ターンの後半にスキーが返ってきて、そこから自分の下を通って、スキーが外側に出ていく。そのスキーの軌道に対して、身体はフォールライン方向に動いていくから、結果的に脚が伸びていく、という感じですかね。
青木 そうだよね、スキーが出ていくから、結果的に脚が伸展する。ターン後半も、自分から曲げるのではなく、スキーが入ってきた結果、曲がる?
奥村 そうですね。あくまで結果的にそうなるという感じで。

青木 ターンのマキシマムの部分では、曲げて荷重する感じ?
奥村 それはないですね。意識としては、内脚が曲がって、外脚は長くなる。骨盤の高低差をつくっていくイメージです。股関節を使って。
青木 外腰を下げていくような?
奥村 そう、角が立ったスキーに対して、滑走面方向にプッシュしていきたいから、そのために身体は内側に入れていきながら、外腰を下げていく。そこは、意識しています。
青木 なるほどね。
奥村 でも、骨盤の高低差を使っていくときの感覚も、いろいろですよね。人によっては外腰を下げるよりも、内腰を引き上げるほうが動きやすいという話も聞いたこともあって。
青木 自分は、今は引き上げるほうだね。数年前までは、押す(外腰を下げる)イメージだったけど。
奥村 外腰を下げることの一番の弊害は、そのことで身体を外側に寄せちゃうことなんですよね。それだと、腰の位置が内側に入っていかないので、どうしても角しか押せない。内を引いたほうが、そうなるリスクは少ないとは思います。
青木 わかる。自分はそのタイプなんだよね。
奥村 まあでも、外腰を下げても、内腰を引き上げても、結果的には骨盤の高低差ができて、同じような動きにはなってくるから。そこは本当に、正解はないですね。
しっかりと角が出たところでスキーを踏む

──先ほど「面を押す」というお話をされていましたが、青木さんはそのために意識していることは何かありますか?
青木 ターンの後半、斜滑降をして抜け出していくときに、スキーの角が外れてフラットになるときがあると思いますが、ここで身体の向きが完全にスキーに正対する、というのを、僕の場合はすごく意識しています。これを僕はセットポジションって言っているのですが、ここで身体が内に向きすぎたり、外に向きすぎたりすると、僕が理想としている50対50のバランスが崩れてしまうので。
──スキーの角がフラットで、身体も正対して、荷重も50対50になる?
青木 そうですね。直滑降のときがまさにそうだと思うのですが、単純に、フラットな両スキーの上にまっすぐ立つ、そのポジションを斜滑降で通過するイメージです。あくまで通過点でしかないんですけど、でもそこを通過できるかどうかがすごく重要だと思いますね。
奥村 ニュートラルポジションを通過するというのは、基本的に僕も同じ考えですね。その50対50のバランスから、もう一個、内に倒したいときには、内脚が大事になってくる。だから僕はけっこう内脚の練習をしたりします。
青木 なるほどね。今、すごいヒントもらった気がする。自分の場合、ニュートラルで50対50をつくって、そこから強さとか、傾きを出そうと思うと、逆に外を押さえちゃうんだよ。だから上体が起きて、角を押さえる方向にいってしまう。でも駿は今、内って言ったよね。
奥村 そう、もう一個、内に行っちゃう。だから割合としては、50対50よりも内のほうが多くなって、徐々に外力をもらってきたところで外を使っていく、という感じになります。
──その、内だったものから、外を使っていくタイミングというのは具体的にどのあたりでしょうか?
奥村 トップが下を向き始めたくらいですね。そのあたりでだんだんとスキーに外力が加わって、ちょっとずつたわんできているので、そこに重さをかけていけば、効率がいい。
青木 外力がもらえてから。
奥村 で、いいんじゃないかなって。
青木 確かに、単純に考えて、切りかわってすぐの山側にあるスキーを踏むのは難しいよね。もう少しスキーが自分の横とか下に来ないと、踏むって動作はたぶんできないと思うから。だけど強さを求めようと思うと、切りかえたらすぐに押さえようとしてしまうんだよね。
奥村 そのタイミングだと、角づけ角もまだ深まりきらないですよね。アルペンの速い選手はたぶん、その外力をもらえるタイミングをつかむのがうまいから、そこで圧をかけて効率よく曲がるんだけど。それを早く早くってやっちゃうと、まだそのタイミングじゃないところで踏んでしまうから。だから捉えは早いんだけど、圧をかけるのはワンテンポ、遅らせていいと思うんです。切りかえた直後にマックスで角が立つわけじゃないから。
青木 しっかりと角が出たところでスキーを踏むってことだよね?
奥村 そうですね。それがたぶん、面を踏むっていう話にもつながると思う。
青木 待てないんだよなあ、その前半の間が。緩中斜面とかではできるけど、急斜面になってスピードが上がってくると、どうしても早くスキーを押さえたくなってしまって。

奥村 でも、難しい滑りをしている気はします。しませんか?
青木 確かにね。
奥村 もっと完全に、外、外っていうほうが単純ではあるし、コントロールもしやすいと思う。
──でも、あえてそれをせずに難しい技術を使うのは、ターンの深さを出していくため?
奥村 そうですね。この深さを出そうと思うと、外がメインでは難しいと思う。できなくはないけど、内を使ったほうが、もっと軸を使って内傾角を深くできるから。でも、こうして話していると、結局は哲也さんと僕のやっていることはほとんど一緒な気がしますね。
青木 考え方は本当に変わらないと思う。だからこそ、僕がイメージしていることを駿がやっているから、すごいと思うんだよね。
奥村 それは、うれしいですね。でも、アルペンをやっていた頃は僕も、角にしか乗れなかったんです。それが自分でも嫌だった。面を押さえてコントロールできる人のほうが、うまいと思うから。
青木 そうだね。
奥村 僕自身は、あくまで角づけ角をしっかりと出して、そのなかで速さを見せることを追求していきたいんです。でもガツンと角を入れるだけでは、強さだけになってしまうから。今日みたいな雪で僕に細かいミスが出てしまうのは、そういうところだと思う。そこはやっぱり、強さのなかにも哲也さんのような滑らかさがほしくて。
──強さと滑らかさというのは、ともすると相反してしまう?
青木 うーん、難しいところですよね。
奥村 難しい。なんというか、捉えたところはめっちゃ滑らかで、そこから徐々に強さが出てくる、というのが理想的なのかな、と思うんですけど。そこのところのスムーズな入れかえというのは、本当に繊細な動きの変化になってくるのかな、と思います。
自分の強みは何か、駿が思い出させてくれた(青木)

ターン後半に角づけ角を深くとるのは、技術選のトップ選手ならほとんどの人ができると思います。駿の一番の特徴は、それをターンの前半、一番難しい局面でやってくることです。すねが雪面につきそうなほど、誰よりも深く、ターンに入ってくる。普通に考えればリスキーだけど、彼はそれを、恐れずにやってくるのです。
駿の魅力は、そのリスクにあると思います。安定した滑りをしようと思えば、彼の能力だったら簡単にできる。でも、そのリスクのある滑りをまとめようと思ったら、駿じゃなくなってしまう。彼は、その自分らしさを消さずに、精度を年々高めているように見えます。そのぶれないところが、スキーヤーとしてかっこいいと思うのです。
その駿と一緒に滑ることで、気づかされたことがあります。僕は駿に対して、自分のスタイルを貫いてほしいと言っている。その僕自身が、自分の滑りを見失いかけていた、ということです。僕の良さは、ターン前半の雪面タッチ──そう自分でも思っていたけれど、今の技術選ではそれが逆にネックになっているのかな、そんなふうに思っていました。どこか滑りが定まらなくなっていたとき、駿が、大事なことを思い出させてくれたのです。
自分が本来、持っている強みは何か。それはやっぱり、ずらしの技術なんだと思う。だから新しいシーズンは、もう迷うことなく、自分の滑りで勝負したい。駿が唯一無二と言ってくれた、その技術を使って。