スキーポールがつなぐ持続可能社会への取り組み
ギア・アイテムその他

使われなくなったアルミスキーポールをリサイクルし、ふたたびスキーポールに生まれ変わらせよう。そんな取り組みが、今シーズンから動き出している。私たちスキーヤーが影響を大きく受け、肌で実感せざるを得ない気候変動に立ち向かう意思を示す業界初の試みとなる「Re-ALoop Action」の背景を取材した。
探し当てたこの環境が変わらずにあってほしい
オリンピックや世界選手権、ワールドカップといった世界の舞台で戦い続け、2022年に現役を退いた湯淺直樹氏。早くもその年の秋には長野県小諸市にある高峰マウンテンパークに自ら代表を務める「YUASA SNOW ACADEMY」を立ち上げ、現在4シーズン目を迎えている。

高峰マウンテンパークを拠点に活動する湯淺直樹氏
「現役終盤に国内レースやキャンプで若手選手からアドバイスを求められるようになって、20年のトップシーンでの経験を伝えなくてはいけないと思い、アカデミーを立ち上げました。高峰マウンテンパークを拠点にしたのは、いろいろな出会いもありましたし、なによりトレーニング環境にほれたからです。標高が高くて雪がそれほど降らない気象条件は、私が戦っていたヨーロッパに似ていました。最初はこんなスキー場が日本にもあったことが意外でしたし、いろいろなつながりのおかげもあって『探し当てた』という感覚でした。その環境の下で私の技術や経験、そしてスキーの楽しさをジュニアたちに伝えることが私の使命だと思っています」

いつまでもスキーが楽しめる環境を
その一方で、湯淺氏はスキーを取り巻く気象環境の変化を自身の肌をとおして感じているという。
「ヨーロッパには氷河があって、私は毎年のように練習に行っていました。その氷河が年々、小さくなっていってるんです。それまでゴンドラを降りてすぐ滑れた場所でも、翌年には滑れるところまで数十メートル歩かなくてはいけなくなっていたりします。氷河が溶けると土や石のかけら、ゴミなどが表面に出てきて、真っ白だった氷河が黒くなります。世界的に見て氷河があったり雪が降ったりする地域は少なく、加えてリフトなどインフラが整っていないとスキーはできません。時期が短くなったり量が減ったとはいえ、日本はスノースポーツ環境に恵まれた稀有な存在です。これからも子どもたちがスキーを楽しんだり目標にしてもらうためにも、雪が降るという環境を維持し続けなければと考えています。そして小さなことかもしれませんが、ゲレンデや道路にゴミが落ちていたら拾って帰ってくるということを、アカデミーのみんなでやっています」
業界初の試み。アルミ製ポールの水平リサイクル

この先もスキーができる環境を残したいという思いで結集
2025年12月、高峰マウンテンパークを運営する(株)アサマリゾート、スキーポール製造販売の老舗である(株)キザキ、世界有数のアルミ素材メーカーの株式会社UACJ(ユーエーシージェー)の3企業が手を携え、「Re-ALoop Action」という取り組みを始めるという発表がなされた。この取り組みは、大まかに言うと、スキー用のアルミポールを回収してリサイクルし、同じくスキーポールとして再生するというもの。ただ聞いただけでは「ふ~ん、そうなんだ」くらいに思うかもしれないが、スキーポールをスキーポールに生まれ変わらせることは、業界初の試みなのだ。その価値を理解するために、アルミの知識を深めておこう。
アルミ(アルミニウム)の原材料は、ボーキサイトという赤褐色の土で、最大の原産国はオーストラリア。ボーキサイトには鉄やケイ素が含まれているため、溶融工場で不純物を除去して「アルミナ」という物質を取り出す。さらにアルミナを電解工場で分解して地金としてのアルミができあがり、アルミ地金はアルミ素材メーカーでさまざまな用途向けに加工。アルミ製品メーカーが缶やスキーポール、野球のバットなどを作ってユーザーの手元に届く。
アルミには軽い、強い、電気伝導性が良い、電気を帯びないなど15の特性がある。加工もしやすいため、ロケット、航空機、自動車、鉄道列車など大ものから、サッシ、アルミホイル、ハードディスクなど身のまわりのさまざまなものに使われる。一方で、掘削や輸送、溶融にかかる燃料、電解にかかる電力は相当なもので、エネルギー食いの一面も持っている。ただ、アルミは再生しやすいという特性も持っている。
図1)アルミ製品ができるまで

図1のオレンジで示した新規のアルミ素材製造過程で使うエネルギーを100%とすると、同じく緑の再生過程では再生することで97%ものエネルギーを節約できる点で、アルミはリサイクルの優等生と呼ばれているのだ。
もともとあったものをリサイクルして、前と同じものに再生することを「水平リサイクル」と言うが、リサイクルの優等生であるアルミの水平リサイクルが浸透しているのはアルミ缶だけ。分別回収が浸透している日本では、回収された空き缶の75.8%(2025年)が水平リサイクルされて新しい缶に生まれ変わっている。「Re-ALoop Action」はこれと同じことをやろうとしているのだ。
「Re-ALoop Action」が取り組むのは、図1の緑のサイクルなのだが、アクションが動き始める前、前出の3者は「点」でしかなかった。
図1の④にあたる高峰マウンテンパークは、不要になったスキーポールの処分に悩んでいたという。「毎シーズン、折れたり曲がったりして使わなくなったポールが数十~100セットほどスキー場に残されていて、シーズン終了後、業者さんにお金を払って処分を頼んでいました。これがなかなかの負担で、同じリサイクルするのでもほかに何か良い方法はないかと思案していました」(田村茂雄支配人)
また、①にあたるUACJと、UACJからアルミを仕入れている②のキザキも、アルミリサイクルについて話し合っていた。キザキの木㟢秀臣社長は、「当社はスキーポールだけでなくバットや介護用多点ステッキ、白杖などさまざまなアルミ製品を作っていますので、製造者としてUACJさんとの間では常々、アルミリサイクルの話題は挙がっていました。再生アルミを作る技術、そこから製品を作って流通させるノウハウは2者にはありますが、不要になったアルミ製品をどう回収するかが問題でした」

キザキの木㟢秀臣社長(左)、湯淺直樹氏(中央)、高峰マウンテンパークの田村茂雄支配人(右)
この「点」と「点」がつながり、円い輪になるきっかけを作ったのが湯淺氏だった。現役時代にキザキのスキーポールを使用していた縁で、アカデミーのある高峰マウンテンパークとキザキのジョイント役になったのだ。「田村さんとの何気ない話からアルミスキーポールのリサイクルの話題になり、私とキザキさんのご縁、高峰マウンテンパークさんとキザキさんは同じ小諸市にあるというご縁でつながることができました。使わなくなったアルミのスキーポールは自宅にもあるのですぐに想像できましたし、このアクションはやるべきだと思いました」(湯淺氏)
小さな輪も私たち次第で大きなムーブメントに

キザキの工場でアルミポールについて説明を受ける
「自然を相手に楽しませてもらっている私たちとしては『Re-ALoop Action』を周囲に伝え、実行しなくてはと思っています。アクションのサイクルの中に入れていただいているのはとても光栄なことですし、スキーヤーとして、大人として、子どもたちに胸が張れるよう活動していきたいと思っています」(湯淺氏)。湯淺氏は北海道の実家にも使わなくなったアルミスキーポールがあったはずと、実家に連絡をしたという。アクションに対する彼の本気度がうかがえる。
現時点での「Re-ALoop Action」は、使わなくなったアルミポールを、高峰マウンテンパークに設置された専用ボックスで回収。長野県や小諸市とも連携して2026年6月には地元小学生を招いてイベントとしてグリップやリングを分解。その後UACJが再生アルミ素材を製造してキザキに納品、10月にはリサイクルアルミポールとしてキザキの2027年モデルとして販売をめざす予定だ。
UACJのような世界有数の企業では、回収アルミはトン(1,000㎏)単位でないと効率が悪いはず。しかし、「Re-ALoop Action」に関しては小ロット単位の回収アルミでも製造するといい、同社の環境に対する本気度を感じる。

UACJ小山製作所。小ロットの回収素材での生産を引き受けた
まだ実証実験の段階で、私たちができることは、使わなくなったアルミのスキーポールを高峰マウンテンパークに届けることくらいかもしれない。しかし、私たちのアクションなくしては何も始まらないだろう。「今はこのアクションの理念や、取り組みを始めたことを広めて面にしていく段階だと思っています。実際、スキー場などの関係者から『興味がある』と連絡をいただいていますし、スキーポールだけでなく登山用、ウォーキング用などにも広がっていってほしいと思っています」(田村支配人)
スキー界発信の「Re-ALoop Action」。関心を行動に移し、世界的なアクションに育てていきたいものだ。