サロモンブーツ、歴史を塗りかえる二つの衝撃
ギア・アイテム

BOA®掌握の「鋭さ」と、EQUIPEが宿す「確信」
サロモンのアルペンブーツが大きな転換点を迎えている。2026/27シーズン、スキーと同様に往年の名機『EQUIPE(エキップ)』が復活。若い才能とともに30年のフランス冬季五輪で頂点を奪還するために欠かせない1ピースとして、『エキップ』が再び世に解き放たれたのだ。
また、今季10ブランドまで拡充され、ブーツ界を席巻するBOA®搭載ブーツのコレクションに、シェル構造にはじまりライナー、搭載テクノロジーまですべてを一新したエキスパートモデルを追加。アルペンレースの世界のみならず、成長著しいBOA®ブーツ市場でも覇権争いを演じている。
勝利への「活路」を切り拓く赤きレーシングの再定義

来季、サロモンが日本国内で展開するラインナップは、レース仕様の『エキップ』が2機種、オールラウンドタイプの『S/PRO(Sプロ)』が7機種、フリーライド系の『SHIFT(シフト)』が3機種。それぞれにフレックスの異なるタイプが用意されている。
『エキップ』の名を冠して生まれ変わった純レーシングモデルは、テクニカルで精度の高いカービングで攻める『S/LABエキップ』、直線的なライン取りで攻める『エキップ』を展開。ともにフレックス150、130、110の3タイプがラインナップされている。

「INCISIVITY(鋭さ)」と「FLUIDITY(流動性)」、二つのライン取り
アルペンスキー・ワールドカップ通算53勝、100回の表彰台を獲得し、25/26シーズンもGS、スーパーG、ダウンヒルの種目別、そして5年連続がかかる総合タイトルでもトップを走るスーパースター、マルコ・オーデルマット(スイス)。その生きる伝説を足元で支えるのが、サロモンのブーツだ。しかし開発拠点のアネシーデザインセンター(ADC)では、次なるビジョンが映し出されていた。
「オーデルマットの滑りは、ゲートとゲートを直線で結び、とても鋭くスピーディにターンを終えます。強靱なフィジカルと卓越した技術をもつ彼ならではの滑りですが、反面ミスをしたときのリカバリーは難しい。もう一方の選手のラインは、流動性があってより弧に近い。若い選手たちに教えるラインですが、ゲートから離れてターンをするから、ミスをしてもリカバリーがしやすいので、自信をもってアタックできる」
サロモンがいっさいの妥協を許さず、もっとも優れたブーツとして送り出す『S/LABエキップ』は、後者をイメージして開発された。
「多くのレーサーは力強さを求める。『S/LABエキップ』は、パワフルでありながら、どんな雪のコンディションでも流れるようにスムーズに、できるだけ体力を使わないで滑れるブーツを目指した」

ADCでは、WCを戦うレーサーたちのブーツをミリ単位で調整
こだわったのは、力を伝えるライナー。ウエアやグローブなどのソフトグッズの開発も行なうADCの独自の縫製により、つま先でシェルを感じやすいものに進化し、くるぶしを保護するコルクパットの質も高めた。
また、シェルに使われるプラスチックを見直し、滑走中の衝撃が時間をかけて抑えられる素材に。それにより、雪面からの情報が選別されて伝わるため、どんな状況でもスキーの真ん中にポジションを取りやすく滑りに集中できるようになっている。
「ひとつの新しいブーツを開発するのに、かかる時間はおよそ3年」
レーシングの世界を揺さぶるべく、準備を進めてきたニューブーツは、「情熱の赤」をパーツの細部に宿し、4年後を見据える若き才能たちとともに新たなスタートを切った。

エキップの歴代コレクション
『S/LABエキップ』、『エキップ』の両モデルに共通しているのは、バックルやストラップなどがネジ止めされているため、パーツ交換やカスタマイズが容易であること。また、足の甲の高さを調整できる分離式のタングをライナーに採用していることも共通している。必要な部分にフォームを追加したり、過剰な部分を削り取ったり(プラスマイナス8㍉)できるのは、シビアな感覚を求めるレーサーのニーズに応える機能と言えるだろう。さらに、ライナーには、解剖学的な形状と第二の皮膚のようなフィット感を実現する最新の「スキンフィット・レース」を採用。足をしっかりホールドすることで、シェルとのシームレスな一体感を向上させている。
BOA®のポテンシャルを「鋭さ」へと転換する設計思想

オンピステの『Sプロ』シリーズは、ラスト幅96mmの『RACE(レース)』、98mmの『ALPHA(アルファ)』、100mmの『SUPRA(スープラ)』、102mmの『DELTA(デルタ)』を展開。タイトなフィット感を求めるレーサーから快適さを求めるエンジョイ派まで、さまざまなニーズに細かく対応するラインナップとなっている。
その中核を担うのが、『アルファ』シリーズのフラッグシップである『ALPHA C BOA®』。カフにBOA®のフィッティングシステムを搭載、シェルはバックルという構成で新たにリリースされた。開発にあたっては、まったく新しいBOA®ブーツの形を模索すべく、ゼロベースから構築。シングルBOA®のポテンシャルを最大限に引き出すテクノロジーがそこかしこに散りばめられている。

カフとシェルを結合させる「パワーリンク」
なかでも、インサイドのヒンジなしにカフとシェルを直接結合するメタル製パーツ「POWERLINKTM(パワーリンク)」は、サロモンの技術力の結晶とも言える最先端テクノロジー。カフの面積をソール方向へ37%広げ、足首周りのシェルを厚くすることを可能にした「EXODRIVE(エグゾドライブ)」との相乗効果で、エッジへのエネルギー伝達性能が大幅にアップしたという。それにともない、コントロール性能も向上。ちなみに、最新の研究結果では、他ブランドのBOA®ブーツよりも雪面へのパワー伝達性が25%もアップしたそうだ。

かかとがぴったり収まる「3Dインステップシェル」
また、第2バックルの位置をくるぶし側に寄せて45度の角度に配置。足の甲への締めつけを緩和するとともに足首のホールド力をアップする「3D INSTEP SHELL(3D インステップシェル)」もキーテクノロジーの一つ。前足部の二つのバックルの間に広いスペースを確保することで当たりの出やすいエリアのストレスを軽減したことに加えて、オーバーラップ部分の厚みを薄く変更し、キャッチャープレートを多関節化することでブーツの脱着が格段にスムーズになったという。
さらに、ヒールのホールド性を高める4D構造を持ち、熱成型が可能な「S/PRO CF エキスパートライナー」を導入。カスタムタングを採用するとともに、豊富なカスタマイズオプションを用意することで、多様な足型にジャストフィットさせることが可能になった。

『Sプロ アルファ C BOAⓇ』はフレックスやカラーによる9機種から選べる
これまで、スキーブーツにおけるBOA®は、ともすれば「快適なフィッティングのための飛び道具」という立ち位置に甘んじてきた。しかし、サロモンのエンジニアたちが目指したのは、既存の枠組みを超えた「融合」だ。ダイヤルを回した瞬間に足全体が均一に包み込まれるBOA®の特性を、単なる心地よさではなく、ミリ単位のエッジコントロールを可能にする「鋭さ」へと転換させる。彼らは、BOA®という巨大なポテンシャルを、サロモンの設計思想に組み込むことで、文字通り「掌握」してみせたのである。
「98mmブーツに革命を起こす」
オンピステ用のブーツは、今後もBOA®ブーツが勢力を拡大していくのは確実な情勢。従来モデルとは次元の異なる機能性と快適性を備えたニューモデルの誕生は、多くのスキーヤーに恩恵をもたらすことだろう。
「赤き情熱」と「青き革新」

サロモンがこの冬に解き放つ二つの衝撃。それは、二つのライン取りで勝利への活路を切り拓く「赤き情熱」と、BOA®を掌握し、次世代のエキスパートブーツを生み出した「青き革新」という、二つの極地である。
この一見、対照的とも思える進化の根底には、ブランドが創業以来、絶やすことなく燃やし続けてきたひとつの哲学が流れている。
「私がもっとも興味を惹かれるのは、明日何を発明するかだ」
かつて創業者ジョージ・サロモンが遺したこの言葉は、いまもアネシーのエンジニアたちの血肉となり、創造の原動力となっている。オーデルマットという絶対王者の存在や、BOA®というイノベーションツールに甘んじることなく、彼らは今日もまた、既成概念を壊し、発明を続けているのだ。
速さへの純粋な憧れを求めた「赤」と、新たなニーズを形にした「青」。そのどちらを選ぼうとも、その足元に宿るのは、未来を切り拓く「確信」に他ならない。サロモンが描く「明日の発明」とともに一歩を踏み出すとき、スキーヤーもまた、新たな転換点を迎えるはずだ。