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トップデモンストレーターに学ぶ上達の最短ルート

レッスン

「術」を磨き、「縦」を制す

2025年の晩春、第63回全日本スキー技術選手権大会の舞台となった秋田県・たざわ湖スキー場に男女合わせて6名のトップデモンストレーターが集結。SG編集部は、彼らのフリースキーイングを通じて推進力の高いターンを描くために必要な技術要素の洗い出しに取り組んだ。そこで見えてきたものは、他のスポーツがそうであるように、基礎技術の洗練度。本企画では、4つのキーワードからスキーのうまさにアプローチし、その本質に迫っていく。

監修・解説=松沢 寿(SAJスキー・デモンストレータープロモートチーム監督)

正確でハイパフォーマンスな滑りを支える土台とは?

トップデモンストレーターが見せるハイパフォーマンスな滑りは、それぞれ個性的です。一見すると、バランスやタイミングのとり方、また運動の組み立て方やスキー操作に違いがあるように思えるかもしれません。しかし、表面的に見てとれる個性は、体格や筋力、滑走イメージなどの差異によるもので、彼らの滑りを支える土台(技術のベース)は共通しています。彼らの滑りを参考にスキルアップを図るときは、土台の上に乗っている個性に引っ張られるのではなく、もっと本質的な部分に着目してトレーニングに取り組みたいものです。では、トップデモンストレーターに共通する土台とはどのようなものなのでしょうか。

武田 竜

『日本スキー教程』には、パラレルスタンスを維持してターンを連続させるためには、脚の3関節(足首、膝、股関節)を連動させて、「ポジショニング」「荷重動作」「エッジング」を正確に行なうことが重要と明記されています。これら3つの基本動作は、推進・制動といったスピードのコントロールはもちろん、ターンコントロールの質を高めていくうえでも大切な要素です。また、さまざまな斜面、雪質への対応という点でもベースになるもので、自在なターンコントロールを習得していくうえでも欠かせません。トップデモンストレーターが難易度の高い斜面でも正確にターンを描き続けられるのは、こうした基礎技術が洗練されていることがベースとなっています。

ここで、推進力の高いターンを描くための土台となる3つの基本動作についておさらいをしておきたいと思います。

須川尚樹

「ポジショニング」は、ターンのどの局面においてもセンターポジションを維持することが重要です。斜度変化やターン中に生じる遠心力に対してバランスをキープするためには、脚の3関節を連動させてセンターポジションを維持することが必須。滑走時にこのポジションを正確にキープすることで、いつでも動ける状態を保つことができ、バランスのいい効率的な運動が行なえるようになります。

「荷重動作」は、スキーに体重を預けたり、戻したりする動きのことです。ターン中は外スキーに体重を預けることでエッジングが緩まないようにキープし、切りかえでは外脚のストレッチング動作によってポジションを戻し、次の外スキーに体重を預けます。この一連の動作も、脚の3関節を連動させて行なうことが大切です。

ターン中は、「エッジング」を行なうことによって雪面からの抵抗や遠心力に対してバランスをとり、ターンポジションをキープ。雪面から近い足関節から動かして行ない、荷重動作を組み合わせることによってターン中の圧変化に対応していきます。

奥村 駿

さて、前述したようにトップデモンストレーターの共通項は、3つの基本動作を含めた基礎技術の高さがベースにあるわけですが、加えてバランス、そしてタイミングの精度が高いところが、彼らがトップである理由です。低速ではできることが、高速になるとできない。緩中斜面ではできることが、急斜面になるとできない。こうしたケースに陥ってしまう原因の多くは、バランスとタイミングのとり方に起因しています。トップデモンストレーターがハイスピードになっても、斜面の難易度が上がっても、どのような雪質でも減速要素の少ないターンを描けるのは、低速で基礎技術、バランスとタイミングのとり方を洗練させているから。技術の習熟度を高めていくうえで、低速から高速まで一貫した組み立てで洗練させていくことがいかに重要なのか、彼らの滑りから学ぶことができます。

片岡嵩弥

続いて、もう少しスキーヤー目線から彼らの滑りにアプローチしてみましょう。デモンストレーターにかぎらずトップスキーヤーは、ターン後半〜切りかえ〜前半のポジショニングをとくに重要視しています。この局面がもっともバランスが不安定で、ミスが起こりやすいからです。このむずかしい局面でセンターポジションをいかに維持するのか。彼らは、いつも自身に問いかけながら滑っています。

鈴木紗英

正確にポジショニングを行なうことができたら、次はターンポジションを維持しながら正確に運動することを意識。斜面状況や滑走スピードに応じて荷重動作とエッジングを的確に行なうことを、彼らはつねに心がけています。

そしてもう1つ、彼らは目的に合わせて動くことを意識しています。たとえば、スキーを推進させる、逆にスキーを制動させる。たとえば、パフォーマンス重視、コントロール重視。滑りの方向性に応じてバランスをとったり、運動を行なったりしています。

髙橋和花菜

本企画の撮影でも、彼らの滑りからは強固な土台が見てとれて、その上にそれぞれの個性が上積みされていることを確認できました。次ページからは、彼らの滑りを支える技術のベースを掘り下げていきますので、上達のヒントとしてご活用ください。

Keyword _01 ポジショニング

動的なバランスを維持する運動を正確に行なってセンターポジションをキープし続ける

現在のスキー用具を使ってパラレルターンへ展開していくときに基本となるのが、足首、膝、股関節の下肢3関節が適度に曲がったポジションです。これはセンターポジションと呼ばれ、静止状態で「しっかり地面を踏める姿勢」といえばイメージしやすいのではないでしょうか。このポジションを滑っていくスキーの上で、しかもターンの局面によって斜度が変化していくなかでいかにキープするのか。これが1つめのキーワードです。

滑走中にセンターポジションを維持するためには、動的なバランスを維持する運動を正確に行なうことが求められます。そのためのポイントは、圧変化に応じて動くことです。

上の連続写真から抜粋した写真4カットを見てください。ターンマキシマム(1コマ目)は、スキーが雪面をとらえて足場ができていて、バランス的には支え合っている状態です。したがって、ここでは「止まっている」感覚になります。そこから切りかえに向かって、外脚のストレッチング動作を使ってポジションを戻しています(2コマ目)が、ここでは自分から「動いていく」ことが必要です。そして雪面をとらえ(3コマ目)、次のターンマキシマムを迎える(4コマ目)わけですが、感覚としては、止まる→動く→止まるといった具合に運動してセンターポジションを維持しています。この一連の動きを正確かつスムーズに行なうことが、安定感のあるターンコントロールの第一歩です。

実際のターンのなかでは、ターン後半〜切りかえ〜前半、すなわち自分から動いていかなければいけない局面が、もっともポジションを崩しやすいと言えるでしょう。スキーと身体の位置関係を保ちながら上下に動かなければならないからです。そのときのポイントは、上体の前傾をキープし、脚部主体の運動で上下動を行なうこと。連続写真を見ても、高い姿勢であっても低い姿勢であっても胸が起きず、足首の前傾をしっかり保ったまま上下動を行なっているのがわかると思います。

ターン中、スキーヤーはさまざまな方向から抵抗を受けます。そのなかで上下動を行なうことによって重心位置も変化。さらに「受ける」要素に加えて自分から「動く」要素があるなかでポジションを維持することは、スキーヤーにとって永遠の課題とも言えます。低速で一連の動きを洗練させて、さまざまな斜面や雪質を攻略する土台を強固なものにしていきましょう。

Keyword _02 重心移動

身体の下にスキーがある状態をキープしてターンの軌跡に合わせて移動していく

重心移動は、たとえばクロスオーバー(横方向への移動)、前後動といった具合に、よくスキーと身体の位置関係で語られます。しかし、重心がおへそのあたりにあるとするならば、滑走中、その位置はスキーと一緒に移動しており、つねに重心の下にスキーはあるはずです。

歩行をイメージしてみてください。歩くとき、足だけを前に出して着地する人はいないでしょう。両脚の間に重心が位置しているなかで先に足が動いて、着地点へ移動してから足を置くはずです。スキー滑走もそれと同じで、進んでいくスキーと一緒に「移動していく」という意識が重心移動のベースとなります。つまり、スキーに対して左右・前後ではなく、スキーが進んでいくライン(ターンの軌跡)によって、重心を移動させる方向は決まるのです。

そして移動していくときは、つねに身体の下、また両スキーの間に重心が位置していることが重要。この位置関係を保つことで、ターンのどの局面でもセンターポジションをキープすることが可能になり、内脚と外脚を自在にコントロールできるバランスを維持できるようになります。

奥村、須川両デモの写真を見ると、つねに両スキーの間に重心位置を保ち、スキーと一緒に移動しながらターン運動を行なっているのがわかります。スキーを動かすときに、自分もスキーが進む方向へ積極的に動いていく意識があれば、つねにスキーが身体の下に位置していて、スキーと一緒に進むことができるという、お手本のような滑りです。

トップスキーヤーの滑走写真を見ると、スキーが「外」、重心が「内」に位置しているように見えるのはたしかでしょう。しかし、それは見た目に現れるシルエットの話で、実際に行なっている運動と混同するのは早計です。たとえばプルークボーゲンを正面から見れば、スキーが外、重心が内に位置しているように見えます。でも、実際は両スキーの間に位置しているから、角づけされたスキーに体重を預けられるです。

重心移動とは、スキーに迎え角をつくって、進んでいくスキーに乗っていくこと。スキーだけを横に振り出してしまったり、前後に動いてスキーを送り出してしまったり、自分は止まっているのにスキーだけを動かすのは重心移動と呼べません。習熟度を高めるときは、動きのイメージや感覚と実際の運動の違いをしっかり認識しておくことが大切です。

Keyword _03 タイミング

フォールラインからフォールラインを意識したタイミングで動く

荷重、エッジング、重心移動などの解説でよく用いられるタイミングというキーワード。ここでは、スキーの推進力を引き出す上下動をテーマに話を進めていきたいと思います。

雪面からの抵抗が変化していくなかで、止まる→動く→止まるといった具合に運動してポジションを維持することの重要性は前述したとおりです。では、この一連の動作はどのようなタイミングで行なうべきなのでしょうか。

荷重動作とエッジングを強めていく舵とりは、姿勢を低くして進んでいくスキーの上で正確にターンポジションを維持する局面です。その状態から外脚の伸展力を使って抜け出し、次のターンポジションをセットするまでは、動的なバランスを維持しながら動く局面。スキーの推進力を失わずに、この2つをつなげるのに重要なのが、フォールラインからフォールラインを意識したタイミングで上下動を行なうことです。

ロングターンの場合、外脚のストレッチング動作と雪面からの反力を活用すれば、十分なターンスペースを確保することが可能です。にもかかわらず、スキーが横に向くまで舵とりを行なってしまうと、たわんだスキーの反力が横方向に働いてしまい、切りかえでスキーが斜面上方に抜け出してしまいます。こうなるとセンターポジションが崩れてしまうことに加えて、次のポジショニングも遅れてしまうため、コントロールを大きく失いがちです。上下動を使ってターンポジションを入れかえるときは、フォールラインを意識してコンパクトなエッジングと荷重動作でターンを仕上げ、スキーにたまったエネルギーをスピーディに次のターンを始める場所に移動させることが大切です。

上下動の方法は、2つあります。片岡デモのように、外脚の伸展動作を大きく使うパターンが1つ。もう1つは、鈴木デモのように、スキーの反力を使うためにストレッチング動作は行なっても、脚を引きつけるようにしてエネルギーをつなげていくパターンです。後者はショートターンでよく見られ、コブを乗り越えるときに脚を身体の下に引きつけるのに近い動きと言えます。

両デモの滑りを比較すると、大きく異なる動きをしているように思えるかもしれません。しかし、フォールラインを意識したタイミングで、上下動を使ってターンポジションを入れかえている点は共通しているのです。

Keyword _04 縦制御

スキーがフォールラインに向く加速局面でスピードとターンをコントロールする

スキーと身体がつねに一緒に移動していくことを前提に滑走ラインをイメージすると、ターンはかならずフォールライン方向に向きます。どれだけ横にターンを引っ張ったとしても、ターン始動時、それは変わりません。スキーが谷側に向くことを次のターン始動とするならば、そこでスキーをどうコントロールするのかを考える必要性が生じてきます。スキーが進んできた方向だけを考えてしまうと、ターンはどんどん大きくなってしまい、コントロールできなくなってしまうからです。

たとえばスピードを一定に保って滑るとき、ターンのどの局面で減速すると効果が高く、コントロールしやすいと思いますか? 答えは、斜面を下っていくとき。舵とりの時間を長くしても、それほど効果はありません。でも、スキーがフォールラインに向く加速局面で縦方向に働いている力を制御できれば、推進力をつないでロスの少ないターンをしていくのか、雪を削ってスピードをコントロールするのか、ターンの性格を自在に操ることができます。

トップデモンストレーターには共通点があります。それは、切りかえから次のターンマキシマムに向かってスキーをコントロールしていることです。スキーがフォールラインに向いている局面はターン中、唯一スピードが上がるところ。そこに向かってスキーの推進力を引き出さなければ、スピードがつながらないからです。そもそもターンを描くこと自体が減速要素なのだから、フォールライン=縦を使わなければいけない。そうした意識を、彼らは持っています。

では、縦長の弧をつなげれば、推進力のあるターンになるのでしょうか。事はそう単純ではなく、スキーの反力を使ってターンスペースを確保し、スキーのトップをフォールラインに向けて次のターンポジションをとって雪面コンタクトを維持しなければ、推進力の高いターンにはなりません。これまで解説してきたポジション、重心移動、タイミングも重要ですが、縦のコントロールを身につけないかぎり、減速要素の少ないターンにはならないのです。

とくにショートターンは、スキーがフォールラインを向くとき、すなわちターンの入り口を制御することでスピードをコントロールしやすくなり、斜面状況への対応幅も広くなってきます。これはカービング主体の操作も、スキッディング+カービングの操作も同じです。スキーが横を向いた状態で切りかえると、減速要素が強まってしまうことに加えて、ターンポジションを入れかえるのに時間がかかり、コントロールを失いやすくなるので要注意。進んでいくスキーと一緒に移動してセンターポジションをキープし、縦を意識してスピードとターンをコントロールすることをめざしましょう。

基礎技術が洗練されているから、個性を表現できる。上達の最短ルートは、ベースの底上げにある

スキーのうまさとは何か?  誰が見てもうまいと感じる滑りとは?  その答えを求めるべく、本企画ではトップデモンストレーターの滑りを通じて推進力の高いターンを描くための技術的な要点を整理してきました。技術の「技」が彼らの個性とするならば、「術」はすべてのスキーヤーに共通する土台です。基礎技術が洗練されているから、個性を表現できる。基礎技術を高めなければ、成長は望めない。上達を実感したときは、個性が磨かれた、あるいは新しい技を身につけたのではなく、実はベースが底上げされているのです。トップデモンストレーターの滑りはそれぞれ個性的ですが、彼らが難易度の高い斜面でハイパフォーマンスな滑りを見せられる理由は、ベースが洗練されているから。それがトップである理由であり、うまさに対する1つの答えになるでしょう。それぞれの目標に向かって「術」を磨いてください。

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