リッチー・ベルガーが教える上達の極意
レッスン
50歳を超えた現在でも、かつてと変わることのない強く、美しい滑りで我々を魅了し続けるリッチー・ベルガー。整地やコブ、悪雪といったシチュエーション、スピードやターンサイズの違いにかかわらず、つねに安定した滑りを見せる彼の巧さを「アラインメント」をキーワードにひもといていく。
アラインメントを操ることであらゆるターン、シチュエーションに対応できる
「アラインメント」とは、スキーにおいてはターン中の身体の各部位──足、足首、膝、股関節(腰)、上体など──の位置を整えること。これを理解するうえで重要なのは、アラインメントはターンサイズやスピード、ターンの局面、斜面の状況や斜度など、さまざまな要素に合わせて動的に変化するということです。
ターン中に自分から動的に動いて良いアラインメントを保つために意識してもらいたいのは、スキーの運動は雪面から近いところから、つまり足や足首、すね、膝、腰という順番で始まるということ。脚部を主体に傾いたり、ひねったりする動作を行なった結果、腰の位置も移動し、上半身も良い位置──アラインメント──に保たれることを理解してください。
本特集では、代表的な例として3つのアラインメントを説明し、それらを身につけるためのエクササイズを紹介していきます。雪質や斜面状況に適したアラインメントを感じ取れるようになれば、より多くのシチュエーションやスピード、ターンサイズのなかで自由自在に滑れるようになるでしょう。
リッチー・ベルガー
1968年3月23日生まれ、オーストリア・シュタイヤーマルク州出身。1990年オーストリア国家検定スキー教師資格を取得。1991年、サンアントンで開催されたインタースキーを皮切りに複数回のインタースキーで代表を務めるほか、アウスビルダーとして国家検定スキー教師の育成に当たるなどオーストリアを代表するスキー教師として活躍。日本にも毎冬訪れ、美しさと強さを兼ね備えた滑りで多くの人々を魅了している
ベーシック・アラインメント
スキーでバランスを保つための基本的&オーソドックスな姿勢
ひとつ目のアラインメントはアルペン基本姿勢とも呼ばれる、基本的かつオーソドックスなもの。その特徴は、静かに安定させて保った上体の下で、脚部を独立させて動かし、スキーの上でバランスを取ったり、雪面と圧のやりとりを行なうことです。
このアラインメントでは、エッジングのタイミングは遅く、ターン後半から仕上げ部分になります。そこまでずらしてきたスキーの動きを、膝を内側に返す動きでストップ。次のターンに向かって抜け出すタイミングをつかんでいきます。
このアラインメントは、現在のカービングスキーを操るうえでも有効なものです。初級のスキーヤーがターンを覚える第一歩として必要なものであることに加えて、上級者にとっても難易度の高い斜面を攻略するために効果的なものになります。
Exercise_01
ストックを上に向けて窓をイメージ。谷側に向ける
ストックを上体の前で谷側に向けて立てて構え、そのストックの間に上体を保ち続けながらショートターンをしていきます。ストックの間に上体を保ち続けることと、脚部を主体に運動し、かかとを使ってスキーをまわすことを意識してください。
Exercise_02
ストックを股関節に当てる。外腰を押す
ストックを股関節に当てて外腰を押しながら滑ります。外腰を押すことで、スキーに対して少し外側に腰が向くアラインメントをつかむことが目的です。静かに保った上体の下で、かかとを使ってスキーをまわしていきましょう。
Exercise_03
ターン後半で一気にエッジング
ターン後半で一気にエッジングすることを意識してショートターンで滑ります。ベーシックなアラインメントと合う遅めのタイミングでしっかりと雪面をとらえるためのポジションと、膝をターン内側に向けて返す運動を身につけることができます。
Exercise_04
外スキーを開き出す。遅いタイミング
ターン後半、外スキーを外側に開き出しながらミドルターンをしていきます。身体の下からターン弧の外側に向けて外スキーを開き出していくことで、外スキーのエッジ角度が強まり、雪面をしっかりとらえるエッジングの動きを覚えることができます。
アドバンス・アラインメント
ターン中盤から後半に上体をスキーのトップに合わせてまわす。しっかりした舵とりをするための姿勢
ふたつ目のアラインメントは、しっかりした舵とりを行なうためのもの。その特徴は、ターン中盤、スキーがフォールラインに絡むあたりから腰や上体がスキーのトップに合わせて向きを変える(正対する)ことです。この運動を正確に行なうために意識してもらいたいのは、外脚を伸ばしながら、外スキーを前に押してエッジングしていくこと。結果的に外足のかかとにかかる圧が強くなるので、滑り手の感覚としては、かかとを使って外スキーを前に押していく運動を行なうことになります。
エッジングのタイミングはフォールライン付近からと中間的なものになり、腰(身体の重心)がスキーに対して直角に横に移動する量(内傾する量)が増えてきます。しかし、大切なのは足元から動き始めること。スキーに角づけするために外足を返して、つま先をターン内側に向けるようにひねること、その結果としてしっかりと舵とりができるアラインメントが生まれることを意識してください。
Exercise_01
ストックを上に向けて窓をイメージ。中盤以降、スキーのトップに合わせる
ストックを上向きに持って構え、ターン中盤から後半にスキーのトップに合わせて向きを変えて滑ります。ストックの間に上体をキープすることで、スキーのトップと一緒に腰や上体が向きを変えるアラインメントを身につけることができます。足元から動くことに注意して取り組んでください。
Exercise_02
ストックを股関節に当てる。両腰を押す
ストックを股関節に当てて構え、両腰を押しながらミドルターンで滑ります。ポイントは、外脚を伸ばしながら外スキーを前に押して進ませるエッジングを行なうこと。外足のかかとにしっかり圧がかかるようになってくると、スキーに正対するアラインメントが身につき、ズレが少ないエッジングを深く仕上げることができます。
Exercise_03
2段エッジング
ひとつのターンのなかで中盤と後半の2回エッジングをして滑ります。膝を内側に返す動きに、外すねをひねる動きを加えてエッジングすることがポイントです。角づけした外スキーのトップをターン内側に向けるようにひねることで、しっかりエッジングすることが可能になり、ターン中盤から後半にスキーに正対するアラインメントも身につきます。
Exercise_04
外スキーを開き出す。中間のタイミング
スキーがフォールラインを向くターン中盤部分で、外スキーを外に開き出してミドルターンで滑ります。ベーシックアラインメントよりも早いターン中盤に的確に外スキーを開き出すことがポイントです。その結果、中盤付近で外スキーの角づけが大きくなり、しっかり雪面をとらえるエッジングをターン後半に向けて行なうことが可能になります。
アクティブ・アラインメント
脚部をスイングしてアラインメントをセット。雪面を崩してターンをコントロールするための姿勢
3つ目のアラインメントは、ターンの早いタイミングからエッジングしていくためのもの。このアラインメントのポイントは大きくふたつあります。ひとつは、切りかえから次のターンを始動する場面で、脚(スキー)を外にスイングしてポジショニングしていくことです。そして、そのポジションからソフトなタッチでエッジングを始めていきます。
ふたつ目のポイントは、すねを傾けたり、ひねったりする運動に、上体をターン内側に向けてねじ込む運動をプラスすること。スキーがフォールラインに向くあたりで上体をターン内側、つまり山側にねじ込む(傾ける+まわす)運動が行なわれた結果、より速いスピードに対応できる正確なエッジングとそのなかでバランスを取り続けられるアラインメントが作られることになります。
早いタイミングからエッジングできるアラインメントを身につけることで、コブや深雪、重い湿雪などでも正確にスピードやターン弧をコントロールして滑れるようになります。また、カービング要素の強いターンでも暴走せず、深く円い美しい弧を描くことが可能になります。皆さんも、そんな滑りをめざしてください。
Exercise_01
ストックを上に向けて窓をイメージ。ターン内側に向ける
ストックを上体の前に上向きに構え、ターンをリードするように内側に向けながらミドルターンをしていきます。ストックを目安にすることで、脚部や上体を積極的にターン内側にねじ込んでいく運動を覚えることができます。すべてのエネルギーをターン内側に向けて行ないますが、あくまでもソフトなタッチのエッジングすることが大切です。
Exercise_02
ストックを股関節に当てる。内腰を押す
ストックを股関節に当てて、内腰を押しながらミドルターンで滑ります。内腰を軽く押すことで、脚部をターン内側に向けてひねり込む動きをより確かなものにすることができます。角づけした外スキーのトップをターン内側に向けるようなひねり動作を行なうことがポイントです。上体はニュートラルな位置に保つようにしてください。
Exercise_03
2段エッジング
切りかえからターン始動にかけてとターン後半の2回エッジングをして滑ります。切りかえからターン始動にかけてスキーをスイングすることで、ターンの早いタイミングからエッジングするアラインメントを覚えることができます。ターン後半のエッジングでもしっかりと足元から動き、正確なアラインメントを作ることを意識してください。
Exercise_04
外スキーを開き出す。早いタイミング
ターン前半に外スキーを外に開き出してエッジングして滑ります。開き出した結果、エッジが立つスキーをしっかりとしならせ、縦に雪のなかに切り込んでいくことで、ターン弧をコントロールしていくことがポイントです。この動きをマスターすることで、ターンの早いタイミングからエッジングしていくアラインメントが身についていきます。