HEAD JAPAN REBELS 反逆者たちの24/25シーズン
ギア・アイテムインタビュー
吹き荒れたヤングレベルズ旋風
世界選手権で7つのメダル、5年連続でアルペンスキー・ワールドカップのメーカー別タイトルを獲得した「HEAD WORLDCUP REBELS」。日本のヘッドチーム「HEAD JAPAN REBELS」も、彼ら以上に暴れまくった。とくにユース世代の戦いぶりは目を見張り、レーシングピステにヤングレベルズの旋風が吹き荒れた。
オフの成果が試されるシーズンがスタート
レース当日の朝、まだ日が昇りきっていない時刻にスタートに上がると、選手たちが使用する各メーカーのスキーが整然と並べられた光景に出くわす。そのなかでもひときわ数が多いのが、ヘッドのスキーだ。これはすなわち、日本のヘッドチームである「ヘッド・ジャパンレベルズ」の、レースシーンにおける存在感を表している。
その存在感の増幅は、ピステの上でもとどまるところを知らない。とくにK2カテゴリーとも呼ばれる中学生世代は、勢いが止まらない。彼らは23/24シーズン、全国のレースで表彰台を含む多数の入賞を記録したが、24/25シーズンはそれ以上の活躍でヤングレベルズ旋風を巻き起こした。
24/25シーズンからレベルズの一員となった大黒巧翔
まずシーズンイン直後の海外大会派遣4名を懸けた国内予選で、男子は大黒巧翔、女子は石水ほたる、小野里佳恋の3名が代表に選出。彼らは2月に行なわれたアルプチンブラFISチルドレンカップに出場し、世界から集まったチルドレンレーサーたちと渡り合った。このアルプチンブラと同時期、国内では全国中学校スキー大会(全中)が開催されたが、前出の3名が不在のなか、負けじとヤングレベルズがピステで躍動した。
アルプチンブラ出場を勝ち取った石水ほたる
K2世代にとってのシーズン前半のビッグイベントについて、チームを統括するレーシングディレクターの佐藤浩行は、「アルプチンブラへの出場は、将来的に非常にプラスになりますし、世界から同年代のトップクラスが集まるので、現時点での経験値も上がると思います。全中は女子選手2名が欠けることになりますが、同等に戦える選手が控えているので心配はしていません」と語っていた。
その言葉どおり、女子大回転(GS)で準優勝を含む6名が入賞。回転(SL)でも1年生の堤柚葵が準優勝、3位に加藤世峰が入り計3名が入賞した。男子もGSで5名の入賞者を輩出。極めつけは入賞者4名のSLで、森田毅の優勝を筆頭に2位に山田悠貴、3位川久保皇佑と表彰台を独占した。
全中男子SLでは表彰台を独占
「高校とは違い中学1年での準優勝は偉業だと思います。海外遠征の2人に負けない、素晴らしいレースを見せてくれました。また、大きな目標の一つである全中で、表彰台を独占するほどのメンタルを試合本番で出せる強さ。オフシーズンからのさまざまな積み重ねが発揮された結果だと思います」(佐藤)
全中女子SLでは、1年生の堤柚葵が準優勝
「ヘッドメソッド」でユースや高校世代を底上げ
レーシングディレクターの佐藤浩行
登録選手数が230名にもなるヘッド・ジャパンレベルズは2009年、佐藤が構想をスタートさせた。草の根的な活動で選手をスカウトして回り、各地域の指導者やコーチも巻き込んで徐々にチームの形を作り上げていった。第1期生とも言える荒井美桜に続き小山陽平、向川桜子などが加わるなどで層が厚みを増し、そして18年に滝下靖之がチームに加入。滝下はダウンヒルの選手として2回、ナショナルチームのヘッドコーチとして1回と計3回のオリンピックを経験し、その後も地元北海道でジュニアやユースの強化活動をしていた。滝下はヘッドコーチとして招聘されると、「ヘッドメソッド」と呼ばれるプログラムでユースや高校世代の底上げを本格的に開始。このテクニカルメソッドは、アップデートされて現在に至っている。
「ユース世代は、4月から次のシーズンに向けた活動が始まります。春のキャンプには、トップチームやFISチームの選手、WCレーサーを招いて技術や調整面を伝授してもらいます。また、オピニオンコーチと呼んでいる選手の所属先のコーチにも参加してもらい、練習内容などをヘッドメソッドに沿って勉強していただいています。ヘッドのキャンプはすべて登録選手のみが参加可能で、一般募集はしていません。完全に強化合宿の形を取っているのが特徴です」(佐藤)
ヘッドコーチの滝下を中心に選手たちをフルサポート
ヘッドメソッドではスキーの技術面は滝下が担当し、フィジカル面はヘッド専属の橘井健治氏(元全日本ナショナルチームトレーナー)、マテリアルは向川らとともにWCなどを転戦していた藤本寛といった具合に、コーチングは分業制。もちろんそれぞれが連携し、オピニオンコーチとも共有しながらスキーに特化したトレーニングを行なっている。
「フィジカルは橘井トレーナーがすべてのメニューを考案し、アルペンスキーに沿った強化をしています。夏のキャンプはユースにとってかなりキツイと思いますが、選手たちが滝下ヘッドと橘井トレーナーを信用しているからこそ、苦しいトレーニングにもついてこられるのでしょう。また、シニア選手も指導を兼ねて自ら参加してくれます。これもヘッドチームの特長。世代間や新加入の選手との交流もできるので、自然とチームにまとまりが出ます」(佐藤)
秋にはピスラボゲレンデを活用した基本練習で土台を作ることで、早いタイミングでのゲートトレーニングを、雪上で開始できるという。
ヤングレベルズが巻き起こした旋風は、シーズンを締めくくる大会でも止むことはなかった。K2とK1カテゴリーと言われる小学5・6年生を含めたビッグイベントであるジュニアオリンピック(ジュニオリ)がそれだ。前半2日間で行なわれたK2のレースでは、GSで男女合わせて12名、同じくSLでは8名の優勝者を含む入賞者が表彰式の壇上に上がった。男女総合優勝の大黒、石水はヤングレベルズだ。またK1では大黒眞優が二冠に輝いた。
「私としては昨年の好成績のプレッシャーがありましたが、選手たちはどこ吹く風。身体や気持ちの持って行き方、集中力、すべてが私の想像以上のレーサーたちでした」(佐藤)
ジュニオリK1SLで3位デビューの森田任
それぞれの場所で挑戦を続けるレベルズ
シーズン後半のFECで好成績を収めた小山陽平
今シーズンのヘッド・ジャパンレベルズの大きなトピックは小山陽平、敬之兄弟のWC対決だ。ともにけがで出遅れたものの、復帰後はWCに加えヨーロッパカップやファーイーストカップでポイント更新を狙い、ミラノ・コルチナ五輪に向けて準備を進めた。
飛躍のシーズンを過ごした小山敬之
インターハイでは女子SLで上野香春、大西美琴、森村日菜が中学生に負けじと表彰台を独占。男子SLも高橋陸都が優勝を飾った。大西は全日本選手権SLでも準優勝と自己最高位を獲得するなど、それぞれが成長を続けている。
また、小山(敬)が優勝したアジア冬期競技会SLでは、鎌田宇朗が銅メダルを獲得。鎌田は大学同期の野澤雪丸とともに、春のFISレースでポイントを更新した。新加入の佐藤大虎も各レースで活躍、切久保絆にブイチック龍馬、大貫詩旺など、名前を挙げたらきりがないほど、ヤングレベルズを含め各世代が分厚い層を形成している。
インターハイ女子SLでも表彰台を独占
「現在のユースチームは国内最強と自負しています。私たちは選手がなんの憂いもなくスタートに立てるようサポートするのが仕事です。どんなに寒かろうが、どんなに疲れようが、彼らの活躍が私たちを次に向かわせてくれています」(佐藤)
ヘッド・ジャパンレベルズが巻き起こす旋風は、ますます強まりそうだ。
ヘッドスキーの公式ホームページはこちら