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2024-25シーズンは「メモリーフィット」でパフォーマンスアップを目指す「ATOMIC BOOTS MEMORY FIT SYSTEM」

ギア・アイテム

「Boots That Fit」。
これは長さや幅はもちろん、形も足にぴったり合ったブーツを使うことでスキーヤーの最大のパフォーマンスを引き出すというアトミックのコンセプト。
その中核となる技術、「Memory Fit」を施すことでスキーヤーのパフォーマンスは、どれぐらい上がるのか?
北見工業大学・冬季スポーツ科学研究推進センターで実験した。

本格的なレーシングブーツのレッドスターシリーズから、軽さと高い機能性を兼ね備えたホークスシリーズまで、アトミックブーツの多くのモデルに採用されている「メモリーフィット」システム。これは、シェルとインナーブーツを専用オーブンで温めることで、スキーヤーの足やスネの形にぴったりとフィットするブーツを生み出す熱成型加工システムだ。
ブーツのチューンナップというと、親指の付け根やくるぶしなど、足のアタリが出やすい場所のシェルを膨らませたり、削ったりする加工が一般的。そのためアタリが出やすい形の足をしているスキーヤーの場合、実際の足の長さよりも大きなサイズのブーツを選びアタリを出にくくするという選択が多かったのも事実だろう。
しかし、メモリーフィットの場合、自分の足の長さに合ったブーツを選んで、足の幅に合わせて加工することができる。さらに、メモリーフィットでは、しっかりとホールドしたい場所は、足に合わせて締めることができ、スキーヤーのパフォーマンスをワンランク上に引き上げることができるという。
この特集では、北見工業大学・冬季スポーツ科学研究推進センターと須川尚樹SAJナショナルデモンストレーターの協力のもと、メモリーフィットする前と後で、スキーヤーのパフォーマンスがどのぐらい変化するかを検証した。

須川尚樹

1990年5月22日生まれ。北海道札幌市出身。中学までジュニア技術選に熱中したのち、高校からアルペンレースに取り組む。大学2年からはレースを続けながら技術選にも参戦。卒業後はプロスキーヤーとして活動。全日本スキー技術選手権の自己最高位は2022年大会の8位。今年の技術選では13位を記録。全日本ナショナルデモンストレーター、N.PLAY SKI SCHOOL校長

【テストに使用したブーツ】

REDSTER TI 150 LIFTED
¥131,890(税込)
サイズ:23.0/23.5-28.0/28.5cm
ラスト:95mm
重量:2,350g(26/26.5cm)

メモリーフィットの基本的な流れ

素足になって足の長さ、幅を計測。同時に甲高、幅広、ボリュームの多寡など、足の特徴を把握。ブーツのサイズは足の実測値を基準に選択する

足の甲や舟状骨周りなど、ブーツの膨らませたい部分にパッドを貼り、トゥカバーを履く。一人ひとり異なる足の形にブーツの形状を合わせるための重要な作業だ

足の実測、パッディング作業と並行して、シェルとインナーブーツを専用のオーブンで温める(5 分間)

シェルとインナーブーツが温まったら、パッドのずれを防ぐために上からソックスを履いた状態でブーツを履く

バックルを軽く締めた状態で、スキーのポジションを取って2 分間立つ。この間にブーツの形状が足の形になじんでいく

ブーツを履いた状態で、あらかじめ冷やしておいたクーリングパッドでブーツを覆い5分間冷やしていく。出したい箇所は膨らませ、締めたい場所は締めることで、足の形にぴったりとフィットするメモリーフィットブーツが完成する

メモリーフィット前後の数値変化

*今回はシェル外側の計測だったが、メモリーフィットの効果としては、内側のほうがさらに変化が大きくなるのが特徴だ

足首周り

足首の曲がり部分とヒールコバの距離を測定
メモリーフィット前:173.4mm
メモリーフィット後:173.2mm(−0.2mm)

前足部

親指と小指の付け根部分の幅を測定
メモリーフィット前:100.6mm
メモリーフィット後:100.9mm(+0.3mm)

舟状骨付近

舟状骨部の幅を測定
メモリーフィット前:88.7mm
メモリーフィット後:89.9mm(+1.2mm)

カカト部分

カカトの幅を測定
メモリーフィット前:76.7mm
メモリーフィット後:76.1mm(-0.6mm)

くるぶし部分

内ヒンジと外ヒンジの距離を測定
メモリーフィット前:97.0mm
メモリーフィット後:97.5mm(+0.5mm)

上に並んでいる数字は、須川デモの足に合わせてレッドスターTI 150にメモリーフィットを行なう前と後のブーツの各部位を計測したものだ。注目してもらいたいのは、前足部や舟状骨、くるぶし部分が広がっているのに対して、足首周りとカカト部分の数字が小さくなっていること。足首周りの形状はブーツが高いホールド感を発揮するために重要な場所で、カカトは力を的確にスキーや雪面に伝えるための鍵となる場所。このふたつの場所が締まり、数値が小さくなっていることは、他のブーツチューンとは一線を画すメモリーフィットならではの特徴といえるだろう。
「メモリーフィットする前はカカトが少し浮いている感じでしたが、メモリーフィットした後は、カカトがしっかりと収まり、足首周りを使いやすく感じました」という須川デモの言葉が、メモリーフィットがもたらすフィット感を如実に物語っている。

メモリーフィット 前後のパフォーマンス変化

メモリーフィット前後でのパフォーマンスの違いは、冬季スポーツ科学研究推進センターにあるスキーシミュレーター、スカイテックと垂直跳びによって行なった。スカイテックは雪質をアイス、対斜面速度を時速50 kmに設定し、左右各12ターン中、最大値と最小値を除く10ターンを計測。これを3回行なって、その平均値を掲載している。跳躍距離は、ブーツを履いた状態で垂直跳びを5回行ない、最大値と最小値を除いた3回の平均値を求めている。そして、須川デモには、最大パフォーマンスを求めるのではなく、左右均等なターン弧で自分のタイミングで滑ることを意識してもらっている。

跳躍距離は、ブーツを履いた状態での垂直跳びによって計測した

内傾角度が大きく、ターン周期が早くなり パフォーマンスの向上が見られる

佐藤満弘
地域未来デザイン工学科教授

「スカイテックで計測したもののうち、ブーツの良し悪しを判断するパラメーターは、最大内傾角度、ターン周期などになります。須川デモのメモリーフィット前後の数値を見ると、左ターンの最大内傾角度平均値(度)が38.90から40.70に、右ターンが39.90から41.10に変わり、左ターンのターン周期平均値(秒)が0.97から0.93に、右ターンが0.92から0.88に変わっています。一般的に内傾角度が大きくて、ターン周期が短く、内傾角速度が速いほど滑走速度が速くなるといわれていますから、メモリーフィットの結果、パフォーマンスの向上が見られたといっていいと思います」(佐藤満弘)

メモリーフィットしたほうが、より強い力を伝えられているのではないか

中里浩介
工学部基礎教育系(体育)准教授、冬季スポーツ科学研究推進センター

「跳躍距離に関しては、メモリーフィット前の25.4cmが26.9cmに向上しています。垂直跳びは下肢のパワーを評価するためのものなので、メモリーフィットしたほうが足裏全体を踏めて、より強いパワーを伝えることができたのではないでしょうか」(中里浩介)
以上のように、メモリーフィット後のほうが良い数値を残しているが、実際に滑ったスキーヤーのフィーリングはどうなのだろうか。

●須川尚樹_REDSTER TI 150


「メモリーフィットするとブーツの形が足の形に沿ってくるので、足首周りはとてもタイトなんだけれど、カカトはしっかり収まり、部分的に出したい箇所だけが出ている印象になります。その結果、足裏全体がしっかりと接地していて、特にカカトで踏める感覚があります。また、動きやすさも高まるので、スカイテックでエッジングするときに一発で良いポジションに入れる感覚もありました」(須川)

 

HAWX ULTRA 130 RS GW使用の学生レーサー2人の実験結果と感想

原山海さん(北見工業大学4年)

FISポイント:GS81.83、SL170.72
競技歴:15年目

メモリーフィットのおかげで足裏全体を使えるようになり、力を地面に伝えやすくなりました。ブーツに当たっていた部位の痛みが減少し、痛みを気にせずに動くことができました。また足裏の感覚をより感じやすくなり、自分のポジションなどの情報も感じ取りやすくなりました。カカトにフィット感が生まれ、安定した荷重がしやすくなりました。

山石奏人さん(インカレ3部GS優勝)

FISポイント:GS70.29、SL79.23
競技歴:14年目

メモリーフィット後、一番変わったのはカカトのフィット感でした。カカトが自分の形になり、しっかりと地面についている感覚がありました。スキーを滑っているときにはカカトに荷重中心があります。そのため、実験の結果の数値が向上したと思います。自分の感覚としても力を出しやすく、伝えやすくなり、滑っているときの左右での違いが出づらくなりました。

スカイテックを利用することで、最大内傾角度やターン周期、ターン中の外脚と内脚の荷重バランスなど、さまざまなデータを室内にいながら測定することができる

実験結果に対するATOMICの見解

ブーツの形状を足型に近づけることで
パフォーマンスは確実に上がる

今回の3名の被験者のテスト結果を見る限り、普段からATOMIC REDSTER TIブーツを使用している須川尚樹選手においても明確にパフォーマンス向上の数値が出ています。その一方で今回ご協力いただいた、北見工大の学生2名に関しては、普段は他社製ブーツを使用しているにもかかわらず、メモリーフィット前と後の数値の変化によるパフォーマンスも顕著に出ており、ブーツのカスタマイズは、ブーツの形状を足型に近づけることの大切さがご理解いただけると思います。
メモリーフィットはブーツのカスタマイズを「拡大」「最適化」「縮小」という言葉で表現しています。足に合ったブーツは快適に滑れ、スキーパフォーマンスも向上し、しかも作業工程がシンプルかつ短時間で終了する。これがメモリーフィット機能を搭載したブーツです。ぜひ読者の皆さまにもこの機会にその良さを体感していただきたいと思います。

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