第60回&61回技術選2連覇・渡邉渚の意識と感覚
レッスン
シンプルに落下を止めない、スキーの動きを止めない
私が目指しているのは、シンプルにどんな状況でも雪とケンカしない滑りです。それを実現するために大切にしているのが、スキーの動きや流れ。落下を止めず、スキーの動きについていくことに集中して滑っています。そのために必要な身体の動きを意識したり、スキーの反応に合わせて力を加減することはあっても、自分から何かしようという意識はありません。
落下を止めないためには、スキーにブレーキがかかることを極力やらないことが大事。ターン前半のとらえが早くなれば、ブレーキング要素が強まる山まわりから早く抜け出せるので、結果として落下を止めない、スキーの動きを止めないところにつながる。私はそう考えています。
わたなべ なぎさ●2001年生まれ、滋賀県出身。小学1年からアルペン競技を始め、6年のときに家族で新潟に移住。インターハイでGS3位、SL2位などの成績を残す。2022年に技術選デビューを果たし、女子総合7位を記録。23年の第60回大会では大逆転劇を演じて初優勝を飾り、FECや国体、全日本選手権に出場しながら挑んだ第61回大会で2連覇を達成。ホテル アルペンブリック所属
洗練されたシンプルさ
みずからの技術を語るとき、渡邊の口からはシンプルかつ本質的な言葉が並ぶ。ムダなものを削ぎ落としていった結果、これだけはどうしても削れないもの。8つのキーワードから、最先鋭テクニックを支える意識と感覚に迫る。
Keyword_01:ポジショニング
動けるポジションをつくり、足首が使える位置をキープ
スキーがつねに自分の腰下にあって、足首が使える位置をキープするよう意識しています。足首に緊張感がないと、スキーのトップが使えず雪面を早くとらえることができないからです。だからと言って、ブーツのタングに足首を押し続ける感覚はありません。動けるポジションをつくることによって、結果として足首が使えるというイメージです。
Keyword_02:スキー操作
腰下にスキーをキープし、雪面に近いところから動かす
つねに自分の腰下にスキーがあった状態をキープしたうえで、足元で操作しています。ターン前半で雪面をとらえるときに、上半身がスキーから離れすぎてしまう、あるいはスキーを自分から外に投げ出すような動きがあると、腰下からスキーが離れてしまうため、とらえが遅くなり、ターンの前半をつくる動きがむずかしくなってしまうので、雪面に近いところから動き出せるよう意識しています。膝だけとか、上体からではなくて、雪面に近いところから動かす感覚です。
Keyword_03:重心移動
雪面をとらえるときに踏み込める位置へ
スキーの動きに合わせて落としていくというか、落下していく方向に落としていくイメージはあります。ただ、ここにこれくらい落としていこうとか、自分から積極的に重心を移動させていく意識はありません。雪面をとらえるときに踏み込める位置にいられれば、それでOKです。
Keyword_04:角づけ
内傾角が強まっても斜面に対して真上に立つ
スキーの面やエッジを意識することはなく、内傾角が強まっても斜面に対して真上に立つイメージで行なっています。内傾を深めたり、膝を倒して強める意識はありません。腰下でとらえてから角が立ち、そこから重心が内側に入っていく感覚です。角が強まって上体が内側に沈み込んできても、自分の腰下にスキーがある位置関係をキープし、それ以上内側に入って外スキーが軽くならないよう意識しています。あと、外脚の意識が強く、内脚は添える程度のイメージです。
Keyword_05:ターン前半(とらえ)
腰下でとらえて、しっかり圧をもらう
ターンから早く抜け出すために、とらえの早さを意識しています。下から見ていると、まだスキーのトップシートが見えているタイミングでしっかり踏み込める位置にいて、自分で踏めるかどうか、動けるかどうかは強く意識しています。あと、なるべく早いタイミングで角づけを深くするために外脚をグッと踏み込む感覚もあります。シュテムターンで外脚を開き出して、重さを乗せていく感覚に近いです。腰下でとらえて、しっかり圧をもらう。これを早いタイミングで行なうことに、ターン前半は集中しています。
Keyword_06:切りかえ
足首を使ってお尻を上げて腰高のポジションに戻す
低いまま切りかえるのではなく、一度高いポジション、足首が使えるポジションにもっていくよう意識しています。お尻を上げて脚を伸ばす、長く使うイメージです。切りかえで足首に意識がないと、緩んでとらえが遅れてしまうことに加えて、とらえたときに外力に負けてしまうので、極力高いポジションをキープすることが大事。足首の角度が緩まないように意識してお尻を上げると、腰の位置を高く保てると思います。
Keyword_07:ターン後半(舵とり)
腰下に戻ってくるスキーに自分も一緒についていく
早くターンを終わらせて次のターンを楽に始めるために、胸が内向したり、肩のラインが下がらないよう意識しています。ターン後半の身体の向きは、次のターンの前半をつくる動きにつながるので、両スキーの前後差ぶん外を向いて、そこから角を外していくイメージです。角が緩んでスキーが走るところは、スキーが腰下に戻ってくるような感覚で、置いていかれないように自分も一緒にスキーについていく、スキーを遠くに離さない意識を持っています。
Keyword_08:ターンコントロール
ロングはスキーの動きに従い、ショートはすばやく解放
ロングターンは反発がゆっくり戻ってくるので、それを逃さないように意識して、スキーの動きを妨げない位置をずっとキープしているイメージです。反発をもらいにいくのは、とらえの部分。スキーが下を向く前に踏み込んで、イメージしている出口に合わせていきます。ターン後半は、スキーを腰の下に戻してあげるだけ。雪が遅いときは、テールを送り出すような動きを少し意識しますが、速いときはスキーの動きに身体が遅れないようについていくことに集中しています。
ショートターンは反発をもらいやすく、スキーがどんどん動いていくので、スキーに乗りすぎないよう意識しています。出口に向かって、すばやく解放してあげる感覚です。早く解放すれば、次のとらえに向けて時間とスペースがとれるので、それを使ってコントロールするイメージを持っています。
女王が実践するベーシック・トレーニング
自身の滑りを確認するとき、実際に行なっているというベーシック・トレーニングのなかから、「足首の動き」「前半のとらえ」「外脚荷重」の感覚を磨くバリエーションをそれぞれ2つピックアップ。効果テキメンということなので、ぜひ試してみよう!
足首の動きを意識したバリエーション
Exercise_01:横滑りから停止の繰り返し
足首の前傾を意識して、横滑りから停止を繰り返します。足首が緩んだり、伸びてしまうと、しっかり止まれないので要注意。一発で停止したときの感覚、バランスが、足首を使えるポジションにつながります。
Exercise_02:ターン中にギルランデ
上半身の動きではなく、足首を使ってスキーを動かす感覚を養うために、ターン中にギルランデを入れて滑ってみましょう。足元でキュキュッとすばやくスキーの向きを変えると、トレーニング効果が高まります。
前半のとらえを意識したバリエーション
Exercise_03:シュテムターン
ターン前半で雪面をとらえるときの外スキーの動き、身体の向きを確認するためにシュテムターンを行ないます。外脚を開き出すときにしっかりお尻を上げて、外足首の角度を保った状態をつくることがポイントです。開き出すときに身体からスキーを離しすぎると、外脚に乗れなくなるので注意してください。
Exercise_04:身体の後ろで手をたたいて切りかえ
切りかえで腰の位置を高くして、足首をしっかり使えるポジションをつくるバリエーションです。ターンを抜け出し、スキーのエッジが切りかわるタイミングで身体の後ろで手をたたき、腰高のポジションをつくってから次のターンに入ります。角づけを深めていくときも、高いポジションをできるだけキープするよう心がけてください。
外脚荷重を意識したバリエーション
Exercise_05:両手を身体の前でクロス
両手を身体の前にクロスさせることで上半身の動きを規制して、外脚の動きでターンしていく感覚を磨くバリエーションです。身体がまわってしまうと、スキーが身体から離れてしまって外足首が使えなくなるので注意しましょう。
Exercise_06:内脚をリフト
外脚1本で雪面に立つバランスを養うバリエーションです。スキーが下に向く前に内脚をリフトさせ、外脚で雪面をしっかりとらえます。内スキーはトップを雪面につけて、テールをリフトさせてください。