ミドルエイジのテククラ攻略
レッスン
体力レベルに応じて滑りを変化させて合格を勝ち取ろう!
40歳に差し掛かるあたりから、年齢を感じるシーンが徐々に増えていきます。「年だから仕方ない……」。本当にそうでしょうか?
現在のスキー技術の潮流を考えれば、体力のある若いスキーヤーがプライズテスト合格に有利であることはたしかでしょう。でも、彼らにはない強みを、ミドルエイジのスキーヤーは備えています。それは、ずばり〝経験〟です。経験を通じて得た技能は、ときに大きなアドバンテージとなります。体力的な衰えを覚えたからといって、あきらめる必要はありません。
その第一歩として取り組んでもらいたいのが、意識改革です。プライズテスト受検者はフルカービングを追求しがちですが、がむしゃらにスピードを求めてそれをやっても、動きに身体が耐えられず、暴走してしまったり、十分にスキーをたわますことはできません。体力的にむずかしさを感じるのであれば、これまで培ってきた技術をベースに、状況・条件に合わせた滑りで戦略的に攻略したほうが高評価につながることも少なくありません。体力レベルに応じて滑りをアレンジすることが、合格への近道になるでしょう。
とはいえ、身体に染みついた技術を少しアレンジするだけで合格を勝ち取れるほど甘くないのがプライズテスト。真の上級者の称号を手に入れるためには、最低限クリアしておきたいポイントがあります。
1つめが、カービングスキーの特性を引き出すうえで欠かせないセンターポジションです。種目を問わず、下肢の3関節(足首・膝・股関節)が曲がったポジションをターンのどの局面でもキープできなければ、合格点は望めないでしょう。上下動を行なうときは、両ももを内側にひねり、外腰を前に出していくと、ポジションが低くなってもセンターを維持できます。
センターポジションの保持
エッジングを伴う上下動
2つめのポイントは、大回りと小回りのエッジングの違いです。大回りでは、スピードに耐えられる軸をつくり、スキーが進んでいく方向へすねをグッと入れていく。小回りでは、すねともものひねりを使って、足元でエッジングを強めていく。この2つを使い分けられると、それぞれの特徴が出て動きが洗練され、目標達成に近づくことができるでしょう。
エッジングの使い分け
パラレルターン・大回り(急斜面/ナチュラル)
推進要素の強いターンをつなげてゴールまでスピードをしっかりキープ
大回りでは、スタートからゴールまでしっかりスピードをつなげていくことがなによりも大切です。スタートしたらしっかり漕いでスピードに乗せ、1ターン目から外スキーに加圧。プレターンからフワーッと入っていくのではなくて、1ターン目からスキーをたわませて走らせましょう。
2ターン目以降は、スピードに対して軸をつくり、雪面から受ける力を利用してターンをつないでいきます。プレ〜1ターン目は、自分から圧を加えてスキーをたわませる。2ターン目以降は、外力を受け止めてたわませる。こうすることで、左右均等にスピーディなターンがつなげられるようになるでしょう。
斜面がハードパックされている場合は、なるべく横ズレを減らして、エッジングの強さをいかに推進力に変えていけるかが合否の分かれ目。逆に雪が軟らかい場合は、無理に強くエッジングしてスキーを食い込ませてしまうと、バランスを崩したり、スピードが出づらくなるので、少し弧を浅くして、失速しないよう心がけましょう。
ここ数年、165〜170センチのスキーを使う受検者が大半を占めるようになりました。このサイズのスキーを使う場合は、急激に圧を加えると一気にスキーの向きが変わってしまい、斜行の繰り返しに見えてしまうことがあるので注意が必要です。運動の連続は、評価の観点の1つ。ゆったりしたリズムで、ていねいに動くことを意識しましょう。
アレンジ①ムダな動きを省いてソフトに滑る
斜面状況が不安定ななかで遠心力に頼ったり、必要以上に動きすぎると、雪の壁が崩れたり、フォームが崩れて減点されてしまいます。そんなときは、ソフトな動き、ソフトなタッチを意識して滑るのも有効な手段。コースがフルカービングに適していないと思ったら、動きとタッチを変えてアジャストしていきましょう。
アレンジ②深く傾けた軸を使って弧を描く
テククラでは、スキーのサイドカーブをうまく使う表現力も求められるので、一本の軸を意識して雪面をとらえていくことが、感覚的にも、シルエット的にも大事。とくにターン前半で高いポジションをとり、軸を使って雪面をとらえてサイドカーブをうまく使ってまわしていくと、高評価につながりやすいです。
パラレルターン・小回り(急斜面/ナチュラル)
横のスペースを使ってスキーを走らせ、カービング要素をアピール
この種目では、ある程度カービング要素の強い滑りが求められます。ターン前半からカービングの弧を描き、しっかりつないでいくのが理想ですが、斜面が急になればなるほど、硬くなればなるほど、フルカービングでの攻略は難易度アップ。ターン前半はズレを使って方向づけをして、後半で切っていくのが現実的な選択です。
方向づけするときは、スキーの入射角を意識しましょう。斜度が急になればなるほど、深くしていくことがポイントです。センターポジションをキープしながらエッジのズレをうまく使って、斜度に適した入射角を設定しましょう。
方向が決まったら、一気にエッジをねじ込ませるのではなく、荷重しながら徐々にエッジングを強めていきます。そして、次のターンに向けてスムーズに抜け出していけば、コントロールを失って暴走するようなミスはほとんどなくなるでしょう。ルーズに入って、徐々にエッジをかませて抜けていく。こんなイメージで滑れば、難斜面にも余裕を持って対応できるようになると思います。
ジャッジへのアピールという点では、横のスペースが小さいと、なかなか評価につながりません。縦方向への速さよりも、横方向へのすばやい動きを意識するといいでしょう。ズレを使って等速の弧を描いていくのではなく、ルーズに入ってスッと横に抜ける。スキーをコントロールして走らせる動きを意識すると、横のスペースを大きくとれるようになります。
アレンジ①低いポジションで深回り
中急斜面でバーン状況が良いときに有効な滑りです。低い姿勢をとり、横のスペースを大きくとってカービング要素をアピールします。ポイントは、足首をしっかり入れてエッジングを深め、横移動に必要なエネルギーを十分に確保すること。限られた条件での選択肢なので、むずかしいと判断したら別の手を選択しましょう。
アレンジ②ズレを使ってコントロール
荒れた急斜面では、フルカービングを捨てて、前半でズレを活用しながら後半のカービングにつなげていくのもあり。切りかえからフォールラインに向いていくときは、スキーを身体の下に置いて一緒に移動していくのがポイント。フォールラインを過ぎたら、エッジングを深めて横に移動すれば、十分に合格点は狙えます。
アレンジ③ウェーデルンベースの滑り
ウェーデルンの動きが身体に染みついているならば、それをベースにしたターンも選択肢の1つ。カービングスキーになにからなにまで合わせようとするのではなく、自分にとって心地よいリズム、操作感を生かすことで、好結果を得られることも少なくありません。とくに急斜面で雪が悪いときは、この滑りがハマることも。
パラレルターン・小回り(中急斜面/不整地)
コブを越えるときに上体を斜度に合わせ、スキーのトップを下に落としていく動きに高評価
不整地種目では、コブのなかでもリズムよく、安定感を保ってゴールまで滑り降りることが求められます。それを実現するためのポイントは、下肢の3関節を使って車のダンパーのように吸収する動き。すねの前傾をキープしたなかで腰を落としてコブを吸収する動きを意識するといいでしょう。
また、コブを受けるのではなく、コブを越えるときに上体を斜度に合わせ、トップを下に落とし込んでいく動きが大切です。そのときのポイントは、コブの頭でスキーをフラットに戻し、コブを越えながら徐々にエッジングを強めていくこと。コブを受けたとき、いつまでも外スキーのエッジをかませていると、横もしくは山側にビューンと抜けてしまうので、受けたらすばやくフラットにして、スキーを下に落としてあげる。コブが苦手な人ほど、エッジを返せず、スピードが落ちるまでまわってしまう傾向が強いので、この動きはぜひ習得しておきましょう。
不整地種目は、バンクを使って深く回し込む滑りや、モーグルのように縦のラインでスピードが重視された時期もありましたが、最近はある程度スピードを維持しながら1つひとつていねいにコブを越えていく滑りに高評価が与えられる傾向が強まっています。また、トップを下に落としてコブをうまく処理している人は、滑走スピードに関係なく高得点を獲得しています。クラウン合格を目指す人は、この2つを押さえたうえで滑走スピードを高めると、より一層合格に近づくでしょう。
アレンジ①コントロール重視
バンクを活用して、落下を少し抑えながらターンを見せていくパターンです。フルバンクで滑ると、グルグル回しているように見えてしまうので、ある程度縦にいく必要はありますが、暴走するぐらいならば、少し遅いスピードでも、スタンスを一定にして回し込んできたほうが評価につながることもあります。
アレンジ②スピード重視
バンクを使わず、縦めのラインでスピードをアピールしていくパターンです。ターンのどの局面でもセンターポジションをキープしておくことを前提に、コブに自信があるのであれば、これを選択するといいでしょう。自分のなかでの限界スピードとターン弧の深さをうまくコーディネートできれば、高得点につながります。
総合滑降(総合斜面/ナチュラル)
リズム変化でうまくスピードをつなげられる演技構成と動きが最大のポイント
この種目は、大回りをベースにリズム変化を入れるというのが一般的ですが、演技全体をとおして減速しないことがもっとも大切です。スキーを振り込んで減速するようなリズム変化は、マイナス評価になるので要注意。いかにスピードを落とさずにリズムを変化させるのか。ここが合否の分かれ目になるので、リズム変化のつなぎ目には細心の注意を払いましょう。
その際に意識してほしいのは、スタート前に演技構成のイメージを固めておくこと。また、コース全体を幅広く使う演技構成を意識しましょう。斜面を横切るようなターンでリズムを変化させると、コース全体をうまく使え、スピード感をジャッジにアピールすることができます。
リズムを変えるときは、ターンサイズが小さくなっても飛ばされないように、事前に低いポジションをとっておくことが大切です。ターンが小さくなれば遠心力も大きく働くので、それに対応するための準備を前のターンですませておきます。急に変化させようとするとバランスを崩してスピードを失いやすいので、「このコースならばこういう構成で滑ればスピードをつないでいける」といった具合に、スタート前にしっかり演技構成を頭に入れておきましょう。
スピードのつなぎ方は、右に行くなら左外足、左に行くなら右外足にリズム変化に伴う圧がかかってくるので、それにしっかり対応する動きがポイントです。力の加減ではなく、感覚的に外足にウエイトを置くと、リズム変化でうまくスピードをつなげられるようになると思います。運動のリズム、荷重の強弱など、外足をベースにリズムを変えれば、ゴールまで失速することなく滑りきれるでしょう。
アレンジ①中回り主体の演技構成
スキー場によっては、コース幅が狭かったり、距離が短いところもあります。そんなときに有効なのが、大きめと小さめの中回りをつなげる戦略です。総合滑降は、ゴールまで失速しないのが大前提。無理に小回りを入れず、中回りベースの演技構成でチャレンジしてみましょう。使用スキーが165〜170cmの人は選択肢の1つに。
アレンジ②スムーズな回転と荷重感を演出
検定は良いコンディションのほうが少ないので、軸を使って身体を回したり倒したりして、スムーズにターン弧を描いているところをアピールするのも有効な手段。ターン前半は軸を意識して傾きと回転を見せ、後半は低い姿勢をとって荷重を強めることでスキーの走りを引き出していくことで、合格点に近づけることもあります。
加点を狙ってみよう!
不本意にもミスで失点してしまった場合や、不得意種目をリカバリーしようと思うなら、加点を狙って果敢に攻めてみるのも有効な戦略。比較的プラス1ポイントを得やすい4つのケースを紹介しておくので、ぜひ参考にしてください。
大回り対策/スピードをつなげる意識を前面に
ここでいうスピードとは、物理的な落下スピードや滑走スピードではなくて、斜め横方向への移動スピードのこと。低いポジションをとり、両スキーのエッジングを深めて十分にスキーをたわませ、そのエネルギーを斜め横方向への移動スピードにつなげていきましょう。姿勢を下げて、両すねを倒していく意識がポイントです。
小回り対策/ウェーデルン2024
スキーを深く回して減速してしまうぐらいならば、テンポよく滑り降りてきたほうが高評価につながることもあります。少し姿勢を下げ、トップがかんだらスキーが回り込んでくる動きを利用して、ウェーデルンのようにすばやい動きをしてスピードに乗って滑ってみましょう。これも合格への選択肢の1つです。
不整地対策①/回し込みターン
コブは暴走しないことが第一なので、バンクを使ってスキーを深く回し込んでいく技術は身につけておきたいもの。とくに段々畑のような状況では、スキーを縦に落とし込んでスピードをアピールするよりも、少しスキーを振って回し込むほうが安定感が増し、ミスが少なくなるので、合格点を得やすいでしょう。
不整地対策②/縦のラインを積極的に
クラウンの合格点である80点以上を想定した滑りです。ただまっすぐハイスピードで滑るだけでは、加点は望めません。ターンスピードを上げたなかで、高いコントロール性をアピールできれば、1点、それ以上の加点も期待できるでしょう。テクニカル受検者も、こうした要素を少し取り入れれば、より一層合格に近づけるでしょう。
実演&監修=栗山太樹
くりやまひろき●1980年2月28日生まれ。東京都出身。新潟県スキー連盟所属。SAJナショナルデモンストレーター認定8期。高校から6年間オーストリアにスキー留学し、FISレースを転戦。帰国後、2004年から技術選に参戦し、2017年に自己最高位の11位を記録。スキー教師としての経験も豊富で、ていねいでわかりやすいレッスンに定評がある。2024年に株式会社シュピーレを立ち上げ、ガーラ湯沢スノーリゾートのスクール事業運営に携わっている。