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百瀬純平の最新流儀
Gに負けない強いターン後半を作る

ターンテクニックの組み立ては、滑り手によってさまざまなこだわりがある。
ナショナルデモンストレーターの百瀬純平が技術の核として考えるのは「ターン後半」の洗練だ。
目指すのは、捉えた圧を一切逃さずに切りかえ、落差と走りを引き出す滑り。
そのためのキーワードとなる「伸展荷重」と「曲げ落下」の動きを中心に解説してもらおう。

解説百瀬純平

ももせじゅんぺい●1978年生まれ、北海道小樽市出身。技術選プレーヤーとして、地元北海道を中心に絶大な人気を誇るスキーヤー。2018年3月に開催された第55回全日本スキー技術選手権大会で男子総合13位を記録。同時に行なわれたナショナルデモンストレーター選考会において、5期目の認定を果たした。シーズン中は、キロロスキーアカデミーの校長として活躍している

伸展荷重からの曲げ落下がポイント。
脚部が長いシルエットのターン後半を目指す

今回、技術選に臨むに当たって私がこだわったのは、「とにかくかっこいいターン後半を作りたい」ということでした。そのために意識したのが「伸展荷重(ターン後半)からタイトでクイックな切りかえを経て曲げ落下(ターン前半)につなげていく」動き。昨年までの私の滑りは、どちらかと言えば明確な上下動をベースにしたストレッチング系のオーソドックスなものでしたが、より高いスピード域でスキーのグリップと走りを引き出すために、本質的な運動のリズムやタイミング、特にターン後半の動きをリニューアルしました。これによって、シルエットも脚が長く見えるようになりましたし、荒れたバーンでもスキーがたたかれるといったケースが激減したことを実感しています。

さて、ターン後半を洗練させる練習というと「斜滑降」が思い浮かびます。ヨーロッパなどでは、このときの姿勢を「アルペン滑降姿勢」と呼び、まさにターン後半のイメージトレーニングとして使用されています。私自身も、今回滑りを変えるにあたり、「斜滑降」の見直しから始めました。理想としたのは、脚部に張りがあり、お尻がスキーのセンター上にキープされ、かつ落ちていないこと。このポジションであれば、脚が長く見えますし、雪面状況への対応も容易です。ターン後半に置き換えて言えば、高速滑走でのGに負けない「強いターン後半」の完成に通ずるということです。このときに重要なのが「脚部の伸展による荷重」。ターン後半、強いGがかかる局面で、脚の関節を曲げて圧に対抗しようとすると、スキーで雪面を捉えることが難しくなり、安定した高速滑走ができません。身体の内傾軸を生かした強い滑りをするには「伸展荷重」が不可欠なのです。

肩と骨盤の傾きが斜面のラインに合っていることが重要!

肩と骨盤の傾きが常に斜面と合っていて、脚部のアングルが一定のまま滑っています。ベーシックな練習ですが、ターン後半で最後まで切り込んで、圧を逃さずに次の切りかえにつなげるイメージを学ぶには、最適なメニューだと思います

切りかえにかけては、ターン後半に脚を伸ばし、Gによって強いグリップがスキーに生じたところから、力をスキーの進行方向に使いながら最後まで切り込んでいくイメージです。ここで、力を抜きながらスキーの面を動かし切りかえてしまうと、「身体の下にスキーを引き戻して、そこからまたスキーを外側に出していく」といった操作になってしまい、落下エネルギーを利用できませんし、見ている人に対しても「なかなか落ちてこない滑り」と映ってしまいます。「力をスキーの進行方向に使いながら最後まで切り込んでいく」という感覚は、私のイメージでは斜滑降のときのフィーリングに近いものがあります。スキーのグリップを外さずに切れている方向に向けてターン後半を作るといった感覚でしょうか。

ずらしながらターン後半を作るのではなく、あくまでもスキーをしっかりグリップさせたまま、次の切りかえまで(最後まで)切り込んで、捉えたすべての圧を一切逃さずに切りかえることができれば、結果的に一瞬のタイミングで切りかえることが可能となり、落差と走りを引き出せます。そしてターンの軌道はやや鋭角的なものとなります。実際、ワールドカップの選手などを見ても、ターン後半の脚関節の使い方は伸展になっており、ターン軌道は非常に鋭角的になっています。

低いポジションからスキーをフォールライン方向に落としていく局面では、「曲げ落下」のイメージを持ちますが、これは脚部を曲げながらスキーのテールを振り出さずに「重心と一緒にターンスペースを効果的に使って切れに乗っていくこと」です。去年までの私は、スキーの反発をもらった瞬間に力を逃がして切り返すイメージだったため、せっかく捉えた圧を次のターンにつなげることができていませんでした。しかし、今年の滑りでは、ターン後半の切れや走りがそのまま次のターン前半に連続している感覚があります。脚部のストロークも大きく見せることが可能になり、滑りがダイナミックになったと感じています。

2018年 全日本スキー技術選手権大会

[大回り/整地・ナチュラル含む]281points(種目5位)

ターン後半で脚部の伸展動作を使いGに対抗しています。同時に身体をスキーの進行方向に積極的に動かしながら、切りかえに向かっています。スキーの圧を逃さずに方向付けできるため、非常にタイトなタイミングでの切りかえが可能になりました

2017年 全日本スキー技術選手権大会

[大回り/整地・ナチュラル含む]274points(種目13位)

反発をもらった瞬間に低いポジションから立ち上がって切りかえているため、圧が逃げてスキーが浮かされてしまっています。スキーの進行方向に身体を使うのではなく、横方向に力を与えているので、スキーに生じる圧変動も大きくなってしまった悪い例です

Gに負けない 強いロングターン

脚の伸展による荷重を使うと、高いスピード次元での強いGに対抗することができます。さらにターン後半で「スキーが向いた方向(進行方向)に力を使う」イメージを持つと、最後まで切れに乗っていくことができ、スキーの動き自体もスムーズになります。そして、この時の感覚が私にとって「斜滑降的」なのです。切りかえもタイトに行なえ、スキー軌道はかなり鋭角的になりますが、勘違いして欲しくないのは「ターン後半に斜滑降を入れる」のではないということ。あくまでも「そのときにスキーが進む方向に力を使い、横方向にはスキーを押さない」という感覚です。また、ターンの最終局面でも、脚部がつぶれずお尻も高い位置にあることに注目してください。

太線がイメージ上のスキー軌道。従来型ターンよりもタイトで深いターンとなる。後半では、次の切りかえに向かってスキーが進んでいく方向に、身体を合わせ、伸ばし荷重で圧をコントロールしていく

写真:鈴木馨二(ホワイトデポ) / 文:近藤ヒロシ / 協力:キロロスノーワールド、キロロスキー&スノーボードアカデミー