コーチが語る奥村駿、初優勝への道のり
ギア・アイテム技術選

第1種目から最後の種目まで圧倒的な滑りを繰り広げ初めての総合優勝を成し遂げた奥村駿。その活躍の背景にはヘッド・レベルス・デモチームの存在があった。奥村の成長を支えた3人のコーチの言葉をとおして彼の技術選を振り返る。
今年はヘッドチームとしてタイトルをとりにいく意気込みが強かった──佐々木

スキーはひとりで滑り、戦うスポーツである。だが、ひとりの選手が滑る背景には、多くの人々──メーカー、都道府県連など──の支えがある。そうした意味で、スキー競技はチームでの戦いであるともいえる。
3年連続で総合2位となった奥村駿を頂点に、ヘッドのレベルス・デモチームには数十名の選手が所属している。その目標は、それぞれのカテゴリーの大会で勝つこと。なかでも技術選を戦うチームにとっては、奥村を勝たせることが悲願ともいえる命題だった。
その命題を現実のものにするために、ヘッド・レベルス・デモチームは、今シーズン、ひとつの改革を行なった。「トップ・オブ・トップ」と呼ぶ、技術選で勝つこと、あるいは上位で活躍することを目的としたチームを編成。限られた選手たちだけで合宿を行なってきた。その目的をトップ・オブ・トップのコーチのひとりである佐々木大は、次のように話す。
「今までトップ選手だけの合宿は行なっていなくて、技術レベル的に幅のあるメンバーが一緒に練習していました。こうした合宿はこれから伸びる選手にはとても刺激的なものですが、人数が多くて滑れる本数も限られてしまうという面がありました。そこで今シーズンからトップ・オブ・トップの合宿を行なうようになりました。なにより駿を勝たせたいという気持ちがあったし、若手をもっともっと引き上げたいという目的がありました」

トップ・オブ・トップは、年末に北海道のルスツリゾート、そして2月中旬にたざわ湖スキー場で合宿を実施。そこには奥村をはじめ、デモチームの中核を成す錚々たるメンバーが集まり、それぞれの技術を磨いた。
「今年はヘッドチームとしてタイトルをとりにいく意気込みが強く、トップ・オブ・トップという仕組みをつくってくれて感謝しています」(佐々木)
駿の滑りを初めて見たとき、きっと時代は変わるなと思った──阿久津

技術選1日目、奥村は完璧なスタートを切る。この日行なわれた2種目でトップの得点を獲得し、総合でもトップに立つことに成功。2位、佐藤栄一との差は5点、7連覇をめざす武田竜との差は10点という大きなものだった。
「去年はコブが2回しかなく、武田選手との差はだいぶ詰まってきたけれど届かなかった。だけど今年はコブで手応えがあって、初日に突き抜けたので勝てそうだなと思った。大会中、その思いはどんどん強くなっていった」
こう話すのはトップ・オブ・トップのコーチのひとり、阿久津和隆だ。7シーズン前のシーズンイン合宿から奥村の滑りを見てきた阿久津は、奥村の滑りを、どうとらえているのか。
「ジュニアのナショナルチームを経験している駿の滑りを初めて見て思ったのは、このままいけば、きっと時代は変わるなということ。その合宿には他の選手もいたんだけれど、基本的なターンスピードが違っていた。アルペン競技のような短いエッジングと深い内傾角を使うターンが特徴的でした。ただ、雪が軟らかくなりスキーが戻ってこない条件ではよさが出なかった。その課題を、これからどうやってつぶしていくか。それが最初に感じたことでした」

技術選では少なくない軟らかい雪という条件。それに合う滑りを身につけるために奥村と阿久津は長年練習を続けてきた。
「スキーの角を立てていくときの身体の使い方が1パターンしかなかった。斜面が硬ければ、角を立てればスキーが雪を噛んで戻ってきてくれるけれど、軟らかい時は、角を立てるだけでは戻ってこない。じゃあ、どうやって足首を使うのか。ポジションをどうするのか。そういうことを低速でじっくりとやって、まずは外脚の感覚をどんどん広げていきました。そのあとに内脚に入っていったんですけれど、その頃にはもう駿は深い内傾角がウリになっていたから、その特徴を殺さないようにしながら。基本的なメニューを精度高く行なって、駿の感覚と外からの見え方、身体の使い方などを話し合い、新しいものを取り入れてもらいました」

技術選を上位で戦う選手は、競技が行なわれる斜面の斜度、その日の雪質にアジャストするため、いくつか滑りのパターンを用意して大会に臨む。
「技術選には駿らしい深い内傾角をベースにした滑り、そのシーズンの研修テーマを意識した滑り、そして、両者の中間と3パターンをつくって臨みました。予選で傾向を探り、最終的にこのパターンでという形でやって。今年の駿は、滑りの微調整という感じでした。ただ、コブだけは近畿予選前のトレーニングで新しいリクエストを出しました。それで新しいものをつかんで、コブもかなりよくなりましたね。そのとき、コブでも武田選手と戦えると思った。そして、予選1日目のコブでラップ。この時点で、今年はいけると自信を深めました」(阿久津)
駿が勝ったことはチームがより強くなるための起爆剤になる──横山

予選1日目でトップに立った奥村は、一度もトップの座を明け渡すことなく最終種目のモーグル(急斜面・不整地)を迎えた。そのスタート前のやりとりで奥村の成長を感じていたのは、コーチの横山秀和だ。
「去年のスーパーファイナル(SF)のコブのスタートで、駿から無線が入り『センターいきます』といってきたんだけれど、そこは受けている箇所があるから自分はよくないと思っていた。最終的に滑るラインは滑る本人が決めて、責任を持って滑るべきだけれど、このときは受けているところで失速して得点は伸びなかった。だから、今年のSFで駿が『どのラインがいいですか?』と聞いてきたとき、どのラインを滑ってきても勝つことはわかっていたんだけれど、格好よく滑ってもらったほうがいいから、下から見て左から3番目がいいと伝えた。駿は、そのラインを滑ってきたんだけれど、最後まで安心して見ることができたし、得点もついてきた。ルスツでできなかったやりとりができてうれしかったし、合宿でもリーダーシップをとってくれて、チームの大黒柱という自覚が強くなってきたんだと思います」

たざわ湖スキー場で奥村が遂げた初優勝は、ヘッド・レベルス・デモチームにとっても男子選手の初めての優勝となった。
「勝てそうで勝てなくて、本当にもがいた時期を乗り越えて優勝してくれたのは、自分たちコーチにとっても大きな喜びでした。チームへの貢献度が高い駿が勝ったことで、チームがよりいっそう強くなるための起爆剤になったと思います。駿とも話し合って、この流れが継続していくように努めていきたいと思います」(横山)
Rebelsデモチームのスーパーファイナル進出者
男子265名、女子152名が出場した今年の技術選。最終日のスーパーファイナルに進めるのは男子30位、女子15位まで。その限られた舞台に進んだヘッド・レベルス・デモチームのメンバーたちの戦いぶりを振り返る。
鈴木洋律(男子総合7位)

「すごく器用で、言われたことがなんでもできる。今年は自分を信じて、外部からの情報に惑わされずに滑った結果が7位。彼らしい、いい滑りだった」と阿久津コーチが話す鈴木洋律。予選1日目のモーグル(中急斜面・不整地)で自身にとって初となる種目1位の273点をたたき出して勢いに乗り、決勝3種目で大きく順位を上げて総合7位へと躍進。スーパーファイナルでも落ち着いた滑りを見せ、自己最高位を大きく更新する総合7位で技術選を締めくくった。
奥村由衣(女子総合6位)

2022年に記録した総合8位というベストリザルトを更新、総合6位に上り詰めた奥村由衣。「滑りがだいぶできあがって、ポジションもよくなり、ミスも減った。それが入賞につながった」という阿久津コーチの言葉どおり、予選からスーパーファイナルまでコンスタントに高得点を積み重ねた。圧巻だったのはコブの滑り。予選と決勝の2種目で種目トップを獲得している。つねに上位で戦った今大会の経験を生かして、来年の技術選では表彰台に上ることをめざす。
山田椋喬(男子総合11位)

佐々木コーチが「雪面に圧をかけていくポジショニングのよさは、トップ選手も認めていると思う」と話す山田椋喬。予選のロングターン(急斜面・整地・ナチュラル含む)で種目1位、予選のフリー(中急斜面・ウェーブ・ナチュラル含む)と決勝のショートターン・リズム変化(急斜面・整地・ナチュラル含む)で種目2位となり気を吐いた。
山本柊吾(男子総合15位)

「滑りの質として、他の選手がまねできないものを持っている。次世代の滑りができる」と阿久津コーチが評する山本柊吾。全体的に軟らかく、グリップのきかない条件の雪が多かった今大会、それに自分の滑りを合わせるのに苦労した面があったが、いくつかの種目で山本らしい鋭く、抜けのよいターンを披露。そのポテンシャルの高さを見せつけた。
尾﨑隼士(男子総合16位)

総合16位と本人にとっては満足のいかない結果に終わった尾﨑隼士。技術選前の合宿で大転倒した影響で、左脚を踏み込むタイミングが合わなくなってしまったことが、その原因だという。第61回大会で総合4位となった実力を持つ選手だけに、来年の技術選をよいコンディションで迎えて本来の滑りを見せ、リベンジすることが期待される。
鎌田敏生(男子総合29位)

「動きが柔らかくて、きれいな滑りができる。もっと評価されてもいい選手だと思っている」と横山コーチが話す鎌田敏生。これといった苦手種目がなく、コンスタントに得点を積み重ねることができるのが強みだ。今大会でも予選、決勝とミスなく自身の滑りを見せて30位以内をキープ、昨年に続いてスーパーファイナル進出を果たした。
福原 歩(男子総合30位)

佐々木コーチが「今後が期待される若手選手」と話す福原歩。手堅い滑りを披露して初めてのスーパーファイナル進出を果たしたが、「ベストリザルトを更新したものの、準備してきたものが通用せずとても悔しい大会になりました」と自身のSNSに綴ったように、悔しさの残る大会になったようだ。この経験をバネに飛躍を遂げることを期待したい。
千葉瑠乃(女子総合9位)

「北海道のジュニア育成で育ってきた選手で、コブが得意。今年の技術選では整地のロングターンの得点が伸びて、成績がアップした」と横山コーチが話す千葉瑠乃。決勝のモーグル(急斜面・不整地)で271点を獲得して種目5位となったのを筆頭に、3種目でシングル順位を記録し、総合順位でも初のトップ10入りを果たした。