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サロモン 世界の頂点を席巻した『EQUIPE(エキップ)』復活

ギア・アイテム

かつて世界の頂点を席巻した『エキップ』の名が、20年の時を経てアネシーから再び解き放たれる。しかし、それは単なる懐古ではない。サロモンが宣言したのは、既存の勢力図を根底から揺さぶる「野心的な未来」だった。

「やっぱり、赤だよね」

ワールドカップ通算30勝、総合優勝3回、五輪では4つの金メダルと2つの銀メダルをその手に収めたクロアチアのアルペンレーサー、ヤニツァ・コステリッチ。彼女の足元には常に、情熱の「赤」があった。

しかし2005年、サロモンは本社買収という時代の波に飲み込まれる。非情な選択を迫られたブランドは、その姿を「青」へと変え、レーシングへの投資を制限することになる。

「われわれはレーサーからの信頼を失ってしまった」

フランス・アネシーで行なわれたプレゼンテーションの場で、彼らはそう正直に認めた。トップブランドが自らの失敗をこれほど潔く語るのは異例だ。だが、その言葉の裏には、10年以上の沈黙を強いられてきたスタッフたちの無念と、「赤」への渇望が渦巻いていた。

26/27シーズン。サロモンは再び、伝説の名機『EQUIPE(エキップ)』を解き放つ。それは単なる新製品の発表ではない。失った信頼を取り戻すための、情熱の再点火である。サロモンの心臓部で胎動し始めた、剥き出しの野心を追った。

サロモンの心臓部「ADC」で進められた「未来への準備」

フランス・アネシー。湖畔の穏やかな街の中にあるサロモンの開発拠点「アネシーデザインセンター(ADC)」は、開放的な空気に満ちていた。3300平方メートルの敷地に約850名が働く巨大なラボ。ここでサロモンのすべてのプロトタイプが作られ、車で30分の距離にあるスキー場ですぐさま検証を行なうことができる。

足を踏み入れると、スタッフたちが和やかに声を掛け合う。しかし、その活気の奥には、ミラノ・コルティナ五輪を目前にひかえた緊張感が通奏低音のように流れていた。白い壁に掲げられた「SHAPING NEW FUTURES」という言葉は、単なるスローガンにとどまらず、ここで働く者たちが共有する「自らの手で未来を形作る」という確かな自負を象徴している。

アルペンスキー部門のディレクター、パスカル·レーベット氏

「レーシングの世界を揺さぶりたい。そのためにもう一度、アネシーでゼロからレーシングスキーの開発を始めることにした」

アルペンスキー部門のディレクター、パスカル・レーベットは、一点の曇りもない眼差しでそう切り出した。ブランドがもう一度高みを目指すなら、やはりレースで勝たなければならない。選手の活躍が感動を呼び、表彰台に上がった事実こそが信頼を証明する。コンペティションに参加することは、すなわち「未来を準備すること」だった。

同時に、16~23歳の若い才能に絞った育成とリクルートを重視していくという。ブランドの考え方に共鳴し、ともに頂点を目指す「エキップ(仲間)」を探すこと。機能する「個」は、強い「コレクティブ(集団)」の中にあってこそ輝く。「レーサーから望まれるようなブランドでありたい」。その新たなビジョンの具体として『エキップ』が戻ってくるのだ。

新生『EQUIPE』、「PCS」と魔法の「7」

プレゼンテーションルームの静寂を破り、ついに新生『エキップ』がその姿を現した。その意匠は、サロモンの決意を象徴していた。レーサーの視野に入るスキーの前方は、レースに集中するための静謐な「サロモン・ブルー」。センター~後方には加速を予感させるエネルギーの「赤」。この2色の共存こそが、再び頂点を目指すための答えだった。 ラインナップの頂点には、サロモンが一切の妥協をせず、もっとも優れた製品にのみ与えるフラッグシップの証『S/LAB(Sラボ)』の称号が刻まれている。

振動吸収から加速につなげる「PCS」

また、その新生『エキップ』に搭載される最大の武器が新テクノロジー「PCS(パワー・コントロール・システム)」だ。スキー内部、芯材の上に配された補強材(チタンプレート)のトップとテール部分を切り抜き、そこに「コルク」のシートを配置している。なぜ、コルクなのか。じつはこの技術、巨大なクリフからのジャンプを繰り返すフリーライドスキーの衝撃吸収技術から着想を得たものだという。カテゴリーの壁を越えた技術のクロスオーバーが、サロモン独自の滑らかな雪面コンタクトを実現し、力強い加速の中でのターンコントロール性能を生み出したのだ。

「7度×7mm」のサイドウォール設計

さらに、エンジニアたちが「魔法の数字」と誇るのが、サイドウォールの設計変更だ。「7度×7mm」。従来4度であったサイドウォールの角度を7度へ寝かせ、厚みも4mmから7mmへと強化した。数字にすればわずかな差だが、その効果は絶大。ターン始動での素早い操作・捉えを可能にし、エッジをかませれば鋭く雪面を切り裂き、難しい状況では揺るぎない安定性とコントロール性を維持してくれる。

ADCで磨き上げられたそれらの新テクノロジーは、サロモンのレーシングスキーが再び世界のアイコンとしての地位を奪還するために用意された、鋭利な回答だった。

開発(ラボ)と検証(雪上)の往復こそが正解を導き出す

そして、今回は特別に開発の裏側も案内してもらい「心臓部の奥」にある生産工場へ。ADCでは、スキー、ブーツ、ビンディング、ウエア、ゴーグル、ヘルメットまで、ウインタースポーツに関するすべてのカテゴリーの開発が行なわれている。通常は各カテゴリーごとに開発が進められるが、『エキップ』については一人のプロジェクトマネージャーが任命され、各部門と連携を取りながら統括する、その名にふさわしい体制が敷かれた。

ADCの生産工場の様子

また、昨今のアパレルメーカーとしての展開が広がる以前から、デザインについても徹底的にこだわってきたのがサロモンの特徴だ。現在はデザイナーを社内に置き、アイデアの具現化から、そのプロトタイプが太陽光の下でのどう発色するか、ブランドロゴの位置や大きさまでアイテムごとに細かく追求。創業者ジョージ・サロモンの「2mまで近づいた時に、何の役に立つのかわからなければダメだ」という哲学は、今も現場に浸透している。

さらに驚かされたのは、デジタルとアナログが融合していること。工場内には、ウッドコアを5軸で加工できるという機械をはじめ最新のマシンが並ぶ一方で、ブラッシングなどの最終的な仕上げには今なお職人の手作業が不可欠だという。その一角で、プレス機に送られる前の「エキップ SL 12」の材料を発見。

工場内で製造された「EQUIPE」の選手用スキー

「ケーキ作りみたいなものですよ」と案内役のパスカルは笑うが、その材料とレシピはあまりにも緻密だ。芯材は安定感をもたらす「プレーン(ブナ)」をセンターに、軽快さを生む「ポプラ」を両サイドに配置。またグラスファイバーの織り方については縦方向に対して25度で交差させ、理想のねじれを探る。そして、トップとテールが大胆に切り抜かれた合金プレートに、あの「コルク」を配置。「こんな小さなパーツでも、雪上に出て検証すれば確かな効果があることがわかるんです」

数値という科学と、スキーヤーとしての感覚。その往復こそが、理論だけではたどり着けないスキー製品のおもしろさなのかもしれない。

ワールドカップの舞台、ヴァル・ディゼールで試乗体験

「アルプスに雪が降り、人々の気持ちが雪山に向かうころ、フレンチアルプスの奥深く、イゼールの谷を上り詰めたどん詰まりの美しいリゾートに、世界中の腕利きレーサーが集結する」

ホワイト・サーカスを追いかけて、旅から旅への生活を続けたジャーナリスト田草川嘉雄は、ヴァル・ディゼールのワールドカップをそう記した。

新生『エキップ』を試乗したヴァル・ディゼール

日本から同行している川上勇貴、森田昂也、森田優香ら若手スキーヤーたちとともに、新生『エキップ』の乗り味を試す場に選ばれたのが、まさにワールドカップが開催される同地だった。「エスパス・キリー」(直訳はキリーの庭。アルペン三冠王、ジャン=クロード・キリーの名に由来)の広大なスケール感に圧倒・感化され「エキップ GS プロ」の179cm、R=17㍍という少し長めのサイズを選択。午後の荒れ始めた中急斜面を驚くほど静かに加速し、あまりに安定しているため、自分の限界スピードをとっくに超えていることに気づかず焦ったが、エッジを立てれば滑らかに雪面に食い込み、意外と簡単にターンができた。

ベテランのヴィクトル・ムッファ・ジャンデ

70回の記念大会となった今年のワールドカップは、男子の技術系2連戦が行なわれた。土曜日のGSでは、通称「ベルヴァルドの壁」と呼ばれる、激しい斜面変化とうねりが連続する急峻にアタックするレーサーたちに、ただただ目を奪われた。

「他の会場と比べても圧倒的に難しい。山の地形がモロに出ていて、オートマチックにきれいなターンができるところなんて1ターンもない」

元ワールドカップレーサーで、現在はサロモンのスタッフである大瀧徹也が実感を込めて教えてくれた。ゴールした選手がレーシングスーツを脱ぐと、汗でびっしょりになったTシャツから真っ白な湯気が立ち昇る。

日曜日のSLでは、サロモンの選手が躍動を見せる。37歳のヴィクトル・ムッファ・ジャンデ(フランス)が、ベテランらしい粘り強い滑りで2本目に進出。その姿を見ていた大瀧は「膝や足首に2度も大きなけがをして、一時期は60番スタートまで落ちたこともあるにもかかわらず、またこの位置まで復活して戦っている。レーサーとしても人間的にもとても尊敬できる人物」と話した。

若き才能が加速。「サロモン・イズ・バック!」

表彰台の中央に立ったアリス・ロビンソン

そして、その時は来た。同日、スイスで開催されていた女子スーパーGで、24歳のアリス・ロビンソン(ニュージーランド)が優勝したという報せが届き、サロモンブースが歓喜に沸く中、ヴァル・ディゼールの地でもう一人の若者が世界に「揺さぶり」をかける。23歳のフランス人、オーギュスト・オルネット。ワールドカップ出場2回目、68番スタートから2本目に残った彼の足元で「集中」の青と「エネルギー」の赤をまとったエキップは、荒れた斜面を正確に捉え続けた。

11位に飛び込んだオーギュスト・オルネット

堂々の11位。表彰台の牙城こそ崩せなかったが、若き才能が刻んだその順位は、アネシーが導き出した答えが、正しい方向に進んでいることを証明していた。 狂喜するスタッフの中で、アルペン部門ディレクターのパスカル・レーベットは、手応えをかみ締めるようにつぶやいた。

「EQUIPE is back. SALOMON is back, Now!」

かつてヤニツァ・コステリッチと共にあった「情熱の赤」は、10年の沈黙を経て、鮮やかに息を吹き返した。

2030年、フランス五輪。新生『EQUIPE』を駆る若き「仲間(エキップ)」たちの物語は、彼ら自身が想定しているよりも速いスピードで進んでいるのかもしれない。

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