プレイバック・ルスツ技術選2024 男子スーパーファイナル
技術選
絶対王者に迫る4日間の攻防
歴史的な連覇を遂げた絶対王者。その牙城は、勝つごとに盤石になっていくようにも見える。しかし、ひるむことなく崩しにかかる、新鋭たちの猛攻はすさまじかった。 舞台は北海道ルスツ。北の大地で、どのようなせめぎ合いが繰り広げられたのか? 激しいトップ争いを展開した4人のプレーヤーにフォーカスし、激闘の4日間を追う。
最終日のスーパーファイナルでは、いよいよ男子30名、女子15名による最終決戦が繰り広げられる。その日を、2位で迎えた川上。3位以上という当初からの目標の達成まで、あと少しのところにいた。
トップとの差は開いたが、このままいけば2位は狙える。川上は、「同点の駿さんよりもいい滑りをしよう」と、最後の戦いに挑んだ。
その奥村に1種目目でリードを許した川上は、2種目目のコブで巻き返しを図る。ところが、そこで痛恨のミス。大きく順位を落としてしまった。
「これは結構、きつかった。泣きたいくらい、悔しくて……」
このままでは3位も厳しい。でも何とか入賞はしたい。その川上を励ましてくれたのが、学連の原田侑駿だった。「大会前から侑駿の家に泊めてもらって、ずっと一緒に練習していました。その侑駿が、いつもの滑りをしたら絶対にいけるから、と言ってくれて」
絶対にやってやる──必死で気持ちを立て直して挑んだ最終種目「フリー 急斜面 整地(ナチュラル含む)」で、川上は渾身のパフォーマンス。285点の高得点を叩き、4日間の最後をラップで締めくくる。会場からはひときわ大きな歓声。この瞬間、川上の中で張り詰めていたものが一気にほどけた。
そのあとだった。川上のもとへ、観客席にいた子どもたちが駆け寄ってくる。サインがほしいというのだ。
「自分も子どもの頃は、選手に憧れてサインを求めたりしていました。それがいつの間にか、求められる側になったんだと思ったら、なんだかうれしくて」
予選から上位で戦い、誰よりも大会を盛り上げた川上。その姿は、選手を夢見る子どもたちの心に、しっかりと刻まれたに違いない。
技術選はやっぱりおもしろい──4度目の挑戦を経て、齋藤は改めて思う。
アルペンなら、たった2本で終わってしまう。でも技術選は種目が多く、試合のなかに波がある。耐えなければいけないときもある。でもあきらめなければ、どんでん返しも起きる。今回の齋藤の戦いぶりがまさにそうだった。
予選初日は17位と出遅れたが、そこからじりじりと這い上がり、決勝では4位。最終日を迎えたときには、目標の「3位以内」はすぐそこにあった。
そんな齋藤にとって、スーパーファイナルは一番の勝負どころ。整地3種目は、いずれも自分と相性のいいタイガー。今年はコブにも自信がある。つまり、全部が得意種目だ。「バーンもいいし、これは行ったもんがち。思い切っていきました」
1種目目の大回りでラップを出すと、2種目目のコブでも高得点。このコブが「ちょうどいいウォーミングアップになった」と、残る2種目でも高得点を連発。堂々の3位入賞を果たした。
見事、目標に到達。でもそれ以上に、あの粘りに粘った経験こそが、何よりの収穫かもしれない。
技術選は、人を成長させてくれる。
「あきらめなくて、本当に良かった。いい経験ができたと思います」
あとは自分のベストを出そう──。最終日、奥村は完全に吹っ切れていた。
自分の滑りに自信があった。だから、「行ける」と思ったし、「行かなきゃ」という思いもあった。振り返れば、それが力みになっていたのかもしれない。
そんな奥村に声をかけたのは、井山敬介だった。「この緊張感で戦えるのは、選ばれた選手しかいない」。確かにそうだ。すごくいい環境で自分は戦えていると、改めて思う。
決勝のあと、届いたのはたくさんの応援メッセージ。そこには、「絶対に優勝できる!」と記されているものもあった。どう見ても点差的に厳しい。それでも優勝を信じてくれる人がいる。こんなに、ありがたいことはない。
最後は点数より、とにかくいい滑りをする。ただし一つだけ、どうしても譲れないものがある。
竜さんの次は、俺──。ここだけは、はっきりさせておきたい。
途中、追い上げてきた齋藤圭哉に逆転を許すも、奥村は次の種目ですぐに抜き返す。「小回り(リズム変化) 急斜面 整地(ナチュラル含む)」で奥村が見せたのは、「絶対に譲らない」という凄み。叩き出したのは、288点。今大会の最高得点だった。
準優勝。奥村は最後、誰も真似できないパフォーマンスで底力を強烈にアピールした。武田竜を倒すのは自分──そう宣言するかのように。
また一つ、記録を伸ばすことができた──4日間を終えて、武田は大きく息をつく。何度勝ってもうれしい。でも今回は、いつもとはちょっと違う感覚があった。
もっと試合が続けばいいのに──最終日を終えて、そんな気持ちになったのは初めてだった。
4連覇するまでは、ずっと自分にプレッシャーをかけてきた。その「4」を達成し、区切りがついたことで武田は、また一つ先のステージに立っているようにも見える。
勝ちたい気持ちはもちろんある。でも今年は、勝ちへの執着のようなものから少し離れたところで試合ができた。それが良かったのかもしれない。身体が硬くなることもなく、気持ちも落ち着いて。自分のいい滑りをすれば勝てる、という自信もあった。この大会での安定感、その強さは、勝ちを重ねてきた武田だからこそ、できることなのかもしれない。
とはいえ、勝つことはたいへんだ。プレッシャーにもさらされる。それでも、勝ち続けることができるのは、どうしてなのか。
それは、日本の技術を背負って立つ、という覚悟。この舞台で勝つということは、日本の技術的なトップに立つこと。それだけ注目されるし、そういう人間にしかできないことがある。
技術を発信することでも、業界を盛り上げていくことも、チャンピオンにしかできないことがあると、武田は思っている。
だから、自らデモンストレーターにもなった。そして今、日本の技術は世界的にも高く評価されている。
若い選手が元気な技術選になった。その彼らには、そういうリーダーになってほしいと思う。勝つとはそういうこと。頂点に立てば、きっと広い世界が見えてくる。