Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo Logo

THE INITIAL SESSION 山田卓也×穴田玖舟

インタビュー

「同じ選手としてセッションできるなんて思ってもみなかった」

山田卓也は言った。

長い年月が結んだ山田卓也と穴田玖舟の奇跡のセッション。

お互いの個性をたたえ合い、触発し合った濃密な時間。

やまだたくや●1973年3月13日生まれ。北海道滝川市出身。1997年の技術選でトップ10入りを果たして以来、2位4回、3位4回を記録。SAJナショナルデモンストレーターを10期にわたって務めた。昨年の第61回技術選ではスーパーファイナル進出を逃したが、独自のスキー感から繰り出される鮮やかなスキーさばきは健在。上位奪還を目指してますますトレーニングに熱が入っている。サホロリゾートスキースクール所属。

あなだきしゅう●1998年7月16日生まれ。北海道砂川市出身。3歳から父の影響でスキーを始める。テレマークレース、XCO MTB(クロスカントリー・マウンテンバイク)の世界最高峰で戦った経験を生かした独特のスタイルで、技術選の舞台に登場。2023年の総合18位から2024年には総合6位と大躍進。札幌大学、日本体育大学大学院卒業。大学院では自転車のコーナリングにおける効率的な身体の使い方を研究。

Episode_01 巡り合わせ

一流のスキーヤーがお互いを知るための最速にして最良の手段、それは後ろについて滑ること。スキーヤー同士の特別なコミュニケーションから生まれるものは「発見、驚き、称賛、学び、時々嫉妬」──。

山田卓也と穴田玖舟。生まれた時代もバックグラウンドもスタイルも異なるふたりのスキーヤーは、乖離しているようでいて、コアな部分がオーバーラップする。

正確なスキー操作と美しいターン弧、真摯にスキーに向き合う姿で、多くの人たちを魅了する山田卓也、51歳。現在、技術選トップ10返り咲きを目指し、滑りを変えるチャレンジに挑んでいる。「ハイスピードで下半身の可動域を引き出せないと、今、自分が目指す強いエッジング、切れや走りのある滑りは到底難しいので、その動きをオフトレでイメージしています」と語り、朝練、昼練、時に夜練まで週5(朝練は毎日)でオフトレに励む。

約30年前、高校卒業後、技術選の道に進みたいと相談したのが、同郷の、当時技術選プレーヤーだった穴田弘喜さん。玖舟の父である。

「今いるサホロスキースクールも、10年間お世話になったロシニョールチームに入るきっかけもすべての道を作ってくれたのが穴田さんです。穴田さんがいなかったら今の自分はないですね」(山田)。

時代の寵児として注目を集める穴田玖舟、26歳。テレマーク、マウンテンバイクの最高峰で培った経験を武器に、唯一無二のスタイルで今年の技術選6位に入賞。大学1年時に技術選を目指すと決め、山田卓也の滑りを目標に、動画などから貪欲に学んだ。

「いつから卓也さんのこと知ってる? と聞かれれば、気づいたときにはもう、という感じ。印象に残っているのは、小学校低学年の頃、父が出場する八方の技術選で、卓也さんの滑りを観てすごいな、きれいな滑りだなあと思ったこと。卓也さんのお父さんのラーメン屋さんにもよく行きましたよ。チャーシューがおいしいんです(笑)。僕の滑りとは違うんですが、細かい足元の動き、板の操作の正確さ、スムーズさ、身体の使い方は卓也さんが一番うまい! そこをまねしたいというか、今も目標にしてやっています」(穴田)。

Episode_02 まさに“異次元”

ふたりはお互いの滑りを「異次元」と表現する。高校生の穴田が出場した全日本ジュニアスキー技術選手権でジャッジを務めた山田は、あり得ないほどの衝撃を受ける。

「この滑り、いいのか? 悪いのか!? どう点数をつけていいのかわからないほどの異次元の滑りは、いまだに目に焼き付いています。そして今、技術選のスーパーファイナルに出場する若い選手たちの、圧倒的な下半身の可動域、深い傾きから次のターンへ切りかえるスピード。こういった技術においても玖舟は、頭ひとつ抜けていますね」(山田)。

穴田は、ルスツの技術選で、他の選手たちが詰まってしまうような軟らかく難しい状況の中、ひとりだけサラサラっと簡単に滑ってくる山田に強烈に惹かれた。

「技術的にまったく理解できないというか、もう異次元すぎ。時代の流れとともに技術も用具も変わってきた中で、今求められている滑りに自分の技術を変え、合わせられるのがすごい。僕は基本的に卓也さんの滑りをまねして、そこにテレマークやマウンテンバイクという自分の色をつけてきたという感じです。他の人よりすねが倒れるんじゃないかってところを強調しながら、ターンのスムーズさは卓也さんのまねをして〝いいとこ取り〟できたらいいなと。卓也さんのスパイス、それは今でも変わらずずっとあります」(穴田)。

Episode_03 後ろを滑るということ

「卓也さん、あのラインいったんすよー」(穴田)

「おー、そうなんかー。楽しかったベー。楽しそうに滑ってたもんな」(山田)

今年の技術選北海道予選の小回り・不整地で山田は、うまくすれば点数が出る〝逆コブ(大きなコブとコブの間)〟のラインを選んだ。「こんなのあるんだ!?」──穴田はそのライン取りをはじめて知り、その後の全日本技術選スーパーファイナルでトライし、種目別2位を獲得。「もし、北海道予選で卓也さんのライン取りを知ることができなかったらこの順位はなかったですね。いい経験をさせていただきました。奇跡です。本当に感謝しています」(穴田)。

天気は上々、3月末のサホロリゾートでふたりのセッションが始まる。ファーストショットは幅の狭い急斜面。山田の後ろを滑ってみたかったという穴田はワクワクしながら背中を追う。

「初めて後ろを滑ったんですがターン弧が円い! ぜんぜんついていけなかった。切り返しのときに一段ラインが上方向に上がる。これが謎というか、どうやってるんだろうと……。ターンがどこで始まるか見当がつかなくて気づいたら荷重が始まってるんです。僕にない技術って大好物。僕はガツガツ系なので、卓也さんみたいなスムーズなターン技術を吸収したいという思いで滑っていました。今、僕にないものをどんどん吸収していけば、いずれ最強になると思っているんで(笑)」。

「玖舟が大きくなって、自分がまだ選手をやっていて、同じ選手としてセッションできるなんて思ってもみなかった。だから、この日を迎えるのが楽しみでした」。そう言う山田もまた穴田の背中を追う。「ハイスピードで滑る玖舟の後ろをつかせてもらったんですが、すごい難しくて合わせられずに終わっちゃった。エッジングや切りかえの間合いがまったく違う。自分の滑りを変化させるというのは、まったく違うスポーツを一から学んでいくような感覚で取り組まないとダメなんだと感じました。斜面の下から見ているイメージと、実際に後ろについて感じた部分を照らし合わせていくと〝なるほど! 〟というところも見えてきました。これは後ろをつかないとわからないところですね」。

Episode_04 だから惹かれる

ちょっと板が浮く、このポジションがカッコいい!……穴田

お互いに惹かれる滑りについて尋ねた。忖度も飾りもない直球にして、愛情が漏れあふれるほどにノンストップ。聞けば聞くほどおもしろい。

まず穴田から。「僕が好きなのは、内傾を出す前に膝が入っているところ。足元を作ってから軸を伸ばすので外足が外れない。僕だったら内側にガンと入って身体も突っ込んじゃいます。卓也さんはフィジカルも強いので、このポジションで耐えられる。しっかり足場を作り、角づけからの荷重という基本がもう機械のように正確で、怖い怖い(笑)。それからこれ(写真下)。完全に板が平らになってる状態で抜重が完璧! ちょっと板が浮いちゃうくらいのこのポジションがカッコいい! 好きです。フォールラインに目線が向いていて、次のターン方向に上体の向きと骨盤の向きがリセットされている。上体の向きが変わらず、下半身から動いてターンするという僕がやりたい滑り。つねに板にまっすぐに圧がかかるように上体が向いているので、たわみを引き出せるきれいなターン。やっぱり勉強になります」。

傾きがエゲツない(笑)……山田

そして山田。「傾きがエゲツない!(笑)。トリッキーにさえ見える下半身の強い傾きに対して、上半身のあごとへそを結ぶ縦のラインが崩れることなく、雪面に対するグリップ、足場が正確。ただ乱暴に傾きを作っているのではなく、傾きに対して上半身のバランスがドンピシャ。そこが素晴らしい! それと股関節の柔らかさ。股関節の可動域によって足裏の角度を調整できるところが一番の特徴かな。そしてその股関節の可動域を引き出すための上半身の構え。背中のバランスがすごくマッチングしているから股関節を自由に、どんなタイミングでも、どんな量でも動かすことができる。また、切りかえの際、もらった圧に対し、どこに移動すればスパッと次に入れかわれるかというスキーと身体の位置関係がすごく繊細。それを急斜面のハイスピードでやれるところがすごい。玖舟はテレマークスキーヤーとしてもトップ選手なので、スキーの上のいろんなバランスを他のスキーヤーよりも知っていて、雪面に腰の位置をグッと近づけて下半身の角度を出すところはすごく上手!」。

Episode_05 求められる場所

穴田が「ぜひ教えていただきたい」という山田のズラしからカービングに入る境目。答えは「ずるいスキーヤーになるとそうなる(笑)」。

例えば急斜面のショートターンで、現在のようなカービング操作が不可能だったノーマルスキー時代、山田は「ズレがズレのまま終わるのではなく、ズレながらスキーが回ってきて最後はシュンと抜ける。ここはこだわりを持ってたくさん練習してきました。でも、今の技術選では求められていないので、とくに急斜面でターンサイズが小さくなってくると、その技術はゼロではないんだけど、極力使わないようにしています。ただいろんな斜面をコントロールして滑るときには、圧倒的に必要。この技術が古いわけじゃなく、今の技術選では評価に合わないだけで、すごく好きな技術です」。

技術選でトップ10に返り咲くことを目標にする山田が今は使わない方向にシフトしている技術。ここに穴田は憧れ、吸収したいと切望する。

「この技術が必ずしも今の技術選で評価されるかはわからないんですけど、今日みたいないい天気でも、バーン状況がいいとは限らないから、卓也さんのようなズラしとカービングをうまく調整できる滑り方をすれば、おもしろいし、きれいに滑れますよね。バックカントリーに行かせていただいたときに思ったんですけど、カービングするとスプレーは上がらないしつまらない。パウダーの中でカービングするともうエライことになる。 だからゲレンデだけじゃなくて、いろいろな斜面を滑るとき、卓也さんみたいな技術は生きてくるし、楽しみの幅が広がると思うんですよね」(穴田)。

Final Episode セッションを終えて

撮影には穴田の父、弘喜さんも仲間たちと見学に来ていた。山田との何十年ぶりかの邂逅、そして山田と愛息のセッションに喜びを隠せない。家族や知り合いがワイワイと集まり、笑顔が弾けた。

「父も来ていて昔話が始まっちゃって『ちょっと時間がないから後で』って。父は日焼けで顔が黒すぎてネックウォーマーしてるんじゃないかってくらい(笑)。セッションはゆるい感じで楽しかったですね」(穴田)。

セッションを終え、今後、目指すところを聞いてみる。

まずは穴田。「技術選の順位はもちろん重要ですし、ありがたいことに6位に入って環境はかなり変わり、今年はスキーに〝全振り〟する感じですかね。テレマーク、マウンテンバイクはトレーニングとしてかなり効果があるし、僕だけのスタイルを出せる部分なので大事にしていきたいです。山での撮影の予定も入っていて、バックフリップやフロントフリップに色をつけたいと思っているので、今、トランポリンで練習中。僕、元々恐怖心がないというか壊れちゃってるんで(笑)問題ないです。とにかく自分のスタイル、僕にしかできない表現があると思うので、基礎スキーに限らず、スタイルのあるスキーヤーになりたい。僕が卓也さんに憧れたように、僕の滑りを見て『おお、玖舟か!』と言われるような。そのためにはまず、いろんなスキーを経験することだと思っています。基礎スキー、アルペンスキー、パウダー、モーグルも。つねに新しいことに取り組み、妥協せず『発見、失敗、成功』を繰り返して成長していきたいですね」

そして山田。「大会に出る以上、順位にもこだわる。ただ出るだけにはなってはいない。来年の技術選では52歳。年齢を考えたら、技術選のスーパーファイナルに残れればすごいことだと思うんですが、でもそこじゃなくて、もう1回トップ10の中で感じるものがほしい。こんなことを言うと笑われちゃうかもしれないけど、そのくらいの気持ちで取り組んでいかないと、どこかで妥協しちゃうと思うんです。トップ10って言ってるけど、最終日の30人に残ったらたぶんガッツポーズしてると思う(笑)。今、滑りを変えるチャレンジ中で、うまくいかないし、順位も落ちてるけど、大会に向けて滑りを磨いていく取り組みは充実していて楽しい。自分が変化していくスピードより、若い選手たちが上手になっていくスピードのほうが圧倒的に早いということもわかった上で取り組んでいきたいと思っています。雪山を楽しもうぜっていうのもいいと思うんですが、今の自分はそこではなく、100%勝負賭けてます。

玖舟は、オリジナル感が激しい滑りをそのまま伸ばしていってほしいですね。今こういう滑りがはやっているとか、技術選で評価される滑りに寄せるのではなく、どんどん自分で作り上げていったら、それが評価されていくんじゃないかな。その伸びしろがどこまでいくのか見てみたい。僕の滑りなんかまねしちゃったらダメになると思うよ(笑)」。

最後に穴田弘喜さんがSNSに投稿した言葉をお借りする。

「キシューが生まれ、まだ名前もない時タクヤと相談して付けた名前が玖舟だ。その2人が一緒にスキーをしている姿は感無量。鈴木カメラマンの撮影もスムーズに終わり、その後タクヤとキシュー2人でリフトに乗って滑りに行った姿は一生忘れる事はないと思う」。

NEWS

もっと見る

月刊スキーグラフィック最新号

第62回技術選で鮮烈なインパクトを放った選手たちのテクニック。 その「うまさ」を探る技術分析「捉えと走り」が巻頭特集! ジャッジを務めた竹田征吾が、彼らの技術の真髄をひも解く。 QR動画連動の技術特集! 渡邊岬の「切りかえは2時間前行動を意識して」。 ターン中にたまったエネルギーを切りかえ時に上に逃さず、 次のターンにつなげていくためのレッスン。 時計の針にたとえて、切りかえの2時間前からの働きかけで ターン前半からスキーが走りだす! ...

……続きを読む

最新号について

バックナンバーはこちら

SKINET +PLUS 動画配信サービス 閉じる