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6ブランドに拡充したBOA®︎搭載ブーツの実力やいかに!?

インタビューギア・アイテム

スペシャル座談会

吉岡大輔×高瀬慎一×渡辺信吾

包み込むようなラッピング構造で足とブーツの一体感を実現するBOA®︎フィットシステム。24/25シーズン、BOA®︎搭載のオンピステブーツが主要6メーカーからリリースされた。ここでは、BOA社の開発担当者とトップスキーヤー二人によるスペシャル座談会の様子をお伝えする。

BOA®︎搭載ブーツはブーツ界の勢力図を書き換えるのか?

スノーボード、ゴルフ、自転車競技、ランニングなどのさまざまな分野で、トップアスリートから一般愛好者までの足元を支える「BOA®︎ FIT SYSTEM.(ボア フィットシステム/通称BOA®︎)」。ダイヤルを回すだけで、優れたフィットを提供し、多くのユーザーの信頼を得るBOA®︎が、ついに昨シーズン、スキーブーツに搭載された!

2001年、アメリカ・コロラド州で創業したBOAテクノロジー社(以下BOA社)は、スノーボードブーツに始まり、現在、世界中のフットウェア、ヘルメット、医療用装具などの300を超えるブランドパートナーの製品にBOA®︎フィットシステムを搭載。

創業から20数年を経て、昨シーズン、スキーブーツへの搭載が実現。昨シーズンは、アトミック、フィッシャー、K2、サロモンの4メーカー、そして、24/25シーズンはノルディカ、テクニカが加わり、主要6メーカーのオンピステブーツに搭載され、スキーブーツは、まさに新時代を迎えたと言っていいだろう。

とはいえ「ゴルフシューズを使っているけれど、スキーブーツってどう?」「レースや技術選で使える?」「バキバキに締まる?」──などという疑問や不安を持つスキーヤーは多いのではないだろうか。

ここでは、雪上でのリアルなフィーリングを、BOA®︎搭載スキーブーツを1シーズン履いた、2013、16、18年の技術選チャンピオン・吉岡大輔とナショナルデモンストレーター・高瀬慎一の二人に、そしてBOA®︎の開発コンセプトを、BOA社のマーケティングマネージャー・渡辺信吾氏に語っていただく。

◆第一印象は?──不安

「これで滑れるのか? って思いましたよ」(高瀬)

渡辺 BOA社では、履いていて“楽”なのは当たり前、その先にある“いかにパフォーマンスを上げられるか”に全精力を注いでいます。トップアスリートに受け入れられなければ、世の中に送り出さないというのが私たちの信条なんです。

吉岡 正直ちょっと不安でした。スニーカーのBOA®︎って紐より締まるし、脱ぎやすくて楽ちんというイメージがあって、スキーブーツもそんな感じかと思っていたんですが、滑ってみると、すごいしっかりしていて、柔らかいとか頼りないっていう印象はまったくなく足元に安定感があります。いい意味で最初のイメージは覆されましたね。

高瀬 BOA®︎のゴルフシューズは使っていましたが、最初は、ほんとにこれで滑れるの? って半信半疑で、とにかくまず家で履いてみました。僕はシーズン始め、新しいブーツに変えるとき、締め具合を細かく調整するんですが、BOA®︎を最初に履いたとき、そういったわずらわしさがまったくなく、足全体がすんなり締まる! ブーツ自体の強度も普通のブーツと変わらない、ということで、実際雪上で滑ってみたのですが、感覚はバックルブーツとなんら変わるところがなかったですね。

◆締まり具合は?──包み込まれるような一体感

「ブーツのかかとをガンガンしなくていい(笑)」(高瀬)

渡辺 一番の特徴は包み込むように締まる「ラップ構造」です。ミッドフット部に金属ワイヤー製のレースがはわせてあり、ダイヤルを回していくと、シェルを包み込みながら均一に重なりを深めていくわけです。微細な調節ができ、足との一体感を生み出すことでパフォーマンスを高めるというコンセプト。お二人は、バックルと比べて、締まり具合をどう感じられましたか?

吉岡 バックルで締める“点”としての強さというより、包み込まれて全体が締まる感じ。 例えば大会に出場するときって気持ちも入るので、いつもよりバックルを1つキツめにすることってありますよね。でも、実は血流も低下するし、パフォーマンスを上げることにはつながらなかったりします。だから逆にBOA®︎で全体を包み込んで一体感を出し、パフォーマンスを上げるというBOAのコンセプトには完全に納得です。

高瀬 普通のバックルだと、上から下に向かってドンッと押さえ付けられる感じですが、 BOA®︎ブーツは、前方から後方に向かって、ギューッとよせられていって、キチッといい感じでかかとが収まる。これが一体感につながるんじゃないかな。かかとがしっかりとブーツに収まっていないと、ターン中盤から後半にかけてのコントロール性はかなり下がるんですよね。よくレーシングブーツを履くとき、みんな、かかとをガンガンやるじゃないですか。 あれをやらなくても、スッとかかとが入ってきますよ。これが明らかに違うところ。

渡辺 高瀬さんのおっしゃるとおりで、締めていく力のベクトルは、足の甲側からヒール側へ向かい、足とブーツの一体感を生み出します。上から押すように締めるバックルだと気になる、バックルとシェルの間に隙間ができず、足の側面から締まり始めて、かかとがしっかりとホールドされていく設計になっています。

吉岡 BOA®︎のスキーブーツってダイヤルが逆回転できるのもメリットですよね。全開放は、昼休憩とスキーが終わったあとの2回だけ。それ以外は逆回転を使いつつ締め具合を調整しています。

渡辺 そうなんです。スキーブーツに搭載されている「H+i1」というダイヤルは、逆回転で緩める方向に調節できるのが大きな特徴です。リフトに乗るときに少し緩めるなどの調節が楽にできます。ダイヤル1メモリで0.25mm、4メモリで1mmという非常に微細な調節が可能で、強すぎず、弱すぎず、自分の力が最も発揮できるところを探せる。自分にとって「最適な位置」を覚えておいていただくと、さらに調整がスムーズになると思います。

◆敏感な動きができる?──フィット感の新定義

「“きつい・痛い”を求める意識って変えていくべきかも」(吉岡)

吉岡 競技スキーの場合、ブーツサイズを実寸より1つ下げて、シェルを削って、よりタイトな状態にして使う人が多いですよね。「痛いけど我慢」なんていう話はよく聞きます。

高瀬 そうそう! 今履いているブーツも シーズン後半になってくると、いろんなところが当たって腫れたりします。 ものすごくタイトにして感覚を敏感にしたくなるんです。だから僕たちは一日楽しくスキーできないブーツを履いて、スキー場で苦しみを求めちゃってる(笑)。レースをやっていたり、上達に真摯に取り組んでいる人は、より細いブーツ履けばいいと考えるようなところもありますけど、やっぱり快適なほうがいいと思いますよ。

渡辺 足のアーチ、つま先、足指を圧迫しすぎることで、血流、筋肉、センサーなどの機能が低下するので、パフォーマンスって落ちてしまうんですよ。これはすでにさまざまなスポーツ分野では研究され、当たり前の事実として認識されています。

吉岡 たしかに「硬い・きつい、けど締まる」ブーツを求める人は多く、痛みがないと不安っていうのも、心理としてはわからなくはないんですが、ブーツと足の一体感は「痛み」や「きつさ」で得られるものではないんだなと。ブーツの使い手としての意識、これは変えていくべきものなのかもしれません。快適を受け入れても、パフォーマンスアップを目指せるんだという意識改革が必要かもしれませんね。

◆上級者に適している?──ラストの許容範囲

「サイズが合えばBOA®︎で技術選に出ますよ」(高瀬)

渡辺 ラストに関しては、メーカーさんによってはあえて広めに作っているケースもあります。「マルチラスト」というネーミングで100のラストで95まで対応するというコンセプトのメーカーさんもあり、BOA®︎のラップ構造がそれを可能にしています。

吉岡  技術選や検定、アルペンレースを目指す人にとっては、「ラスト98か、緩いな」という印象を持つかと思いますが、渡辺さんのお話を聞くと、納得できるんじゃないでしょうか。

高瀬 僕は、フィッシャーのバキュームフィットで熱成型してフィッティングしているんです。これなら、個人個人の足型に合わせられますから、BOA®︎とバキュームフィットの組み合わせって、もしかして最強かも! と感じました。僕は、サイズが合えばBOA®︎で技術選に出ますよ。履けば必ず実感できるこの締まり具合、ぜひ試してほしいですね。

◆バックルブーツを超える?──科学的データによる証明

「あのベンジャミン・ライヒが開発に関わっている!」(吉岡)

渡辺 搭載が最も難しかったのがこのアルペンブーツなんです。通常の開発期間3~4年のところ、構想から7~8年かかってようやく実現できたんです。開発初期から関わってもらったのが、ワールドカップ通算36勝、総合優勝もされているオーストリアのスーパースター、ベンジャミン・ライヒ。どのくらいの角度でブーツを傾けた際に、ダイヤルが雪面に当たるかなど、さまざまな視点からアドバイスをいただいています。

吉岡 僕たち二人は一緒に競技してきて、ベンジャミン・ライヒがスーパースターだった世代。ずっと近くで見てきたし、同じレースに出たこともあり、彼ほどのレーサーがBOA®︎ブーツの開発に関わっていると聞けば、信頼度はグンと高くなりますね。

渡辺 トップアスリートからのフィードバックはもちろん、BOA本社オフィスでの最先端の生体力学研究施設と雪上において、BOA®︎ブーツとバックルブーツの比較検証を徹底的に行ないました。加圧センター付きのインソールを使った雪上テストでは、足底圧のピークフォース(最大値)がバックルブーツよりもBOA®︎のほうが高く、切り返し時の圧もより早くかけられるというデータが出ています。

吉岡 スキーは、しっかりと正しい方向に重さをのせ、 板をしならせる動きも大切ですから、自分の伝えたい力が思ったとおりに伝わるという意味で、足底圧が高いことはプラスに働くと思います。

高瀬 ターン始動時にエッジが早くかかるというデータに関しては、かけたいときにエッジがかけられるので、これも有利に働くでしょうね。

吉岡 技術選、検定、競技では、いろいろなターン弧やリズムがあるので、エッジ角を立てる時間をコントロールできるというメリットは、 タイムや見た目の変化につながると思います。

高瀬 そうですね。バックルブーツだと、点による締めすぎ感があって、単発的というかエッジはすぐ決まるんです。でも、そこから力を加えていくのはなかなか難しい。例えば、レースバーンのように整理された雪面なら、単発的なエッジングでもいいかもしれないのですが、技術選は、ほぼナチュラルバーンなので、がっちり締められたブーツで敏感になりすぎていると、最初にエッジをかけたときに決まりすぎて、そのあとの活用が難しい。BOA®︎のように包み込むようなブーツのほうがエッジのコントロールがしやすい気がします。足底圧が高いということは、多分そういうことにつながるんじゃないかなって思います。

渡辺 貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。参考にさせていただきます。私たちはパーツ提供会社ではなく、フィットソリューション企業として、それぞれのギアメーカーさんと共同開発し、製品をさらに良いものにすることを追求しています。BOA®︎は「最新モデル」がいつでも「最高」の機能性を誇り、つねに進化を続けています。25/26シーズンも搭載メーカーの増加や競技シーンでの選手使用、新構造の登場などを予定していますので、皆さん、どうぞご期待ください。

(右)高瀬慎一⚫︎たかせ・しんいち

フィッシャー「RC4 PRO MV BOA」を使用

1977年富山県出身。高校時代にインターハイで優勝し引退。その後約10年のブランクを経て復帰。北陸地方をベースにアルペンレースと基礎スキーを中心に活躍。2019年国体C組優勝。2019、2021年技術選8位。2023年インタースキー日本代表。全日本スキー連盟ナショナルデモンストレーター。

(中央)吉岡大輔⚫︎よしおか・だいすけ

サロモン「S/PRO SUPRA BOA 130」を使用

1980年北海道ニセコ町出身。2005年ボルミオ世界選手権大回転26位、2006年トリノオリンピック大回転24位。レース引退後、技術選に転向。2013、16、18年技術選優勝。ニノックススキースクール代表/校長。夏はキャンプ場を開設し山の楽しみ方をプロデュース。アルペンレース解説者としても活躍。

(左)渡辺信吾⚫︎わたなべ・しんご

BOA TECHNOLOGY JAPAN INC.マーケティングマネージャー。スノースポーツを長年にわたり愛好する。

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