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プレイバック・ルスツ技術選2024 男子決勝

技術選

絶対王者に迫る4日間の攻防

歴史的な連覇を遂げた絶対王者。その牙城は、勝つごとに盤石になっていくようにも見える。しかし、ひるむことなく崩しにかかる、新鋭たちの猛攻はすさまじかった。 舞台は北海道ルスツ。北の大地で、どのようなせめぎ合いが繰り広げられたのか? 激しいトップ争いを展開した4人のプレーヤーにフォーカスし、激闘の4日間を追う。

武田竜がゴールドビブを身につけて技術選に臨むのは、これで4度目になる。見る側はもはや当たり前のようでも、つける側の気持ちは、毎回違う。何度、優勝を重ねても、一つとして同じ優勝はなかったからだ。

予選から首位をキープできたのは、これまでたったの1度だけ。序盤で振るわず、3日目から追い上げる。それが、いつものパターンだった。

だから、苦しむことも多かった。初優勝のときはベテランに揉まれ、2回目はベテランと若手に挟まれて──。

でも今年は違う。久しぶりに予選からの首位スタート。まわりを見渡すと、これまでとは違う風景が広がっていた。

「同じ北海道勢でも、玖舟(穴田玖舟)がいて、侑駿(原田侑駿)がいて……。新しい若い選手がどんどん出てくる。これも時代の流れなのかな、と」

その彼らが、チャンピオンである自分を追いかけ、全力で向かってくる。それが、うれしかった。刺激をもらえるからこそ奮い立つ。そして戦うたびに、自分自身が強くなっていく。

かつては自分が追いかける側だった。でも今は、逆の立場にいる。若い選手には頑張ってもらいたい。だから、しっかりと見せていこうと思った。勝つとはどういうことか? その戦い方を。

大会の一番の勝負どころは、3日目の決勝。すべて一番を取らなくてもいい。ただし、決めるところはしっかり決める──武田は、この決勝の舞台で、一気にギヤを上げてきた。

決勝は、予選を勝ち抜いた男子上位120位、女子60位で争われる。使用コートの難易度も上がり、ハードな急斜面で知られる「タイガーコース」が、その主戦場だ。急なだけならまだいいが、うねりがあったり、ねじれたり。しかもこの日は表面の雪が動く、非常に難しいコンディションだった。

それは裏を返せば、力の差がはっきりと出る条件。「得意のショートが決まれば勢いに乗れる」──武田は決勝2種目目、「小回り 急斜面 整地(ナチュラル含む)」で、勝負を仕掛けた。

選んだのは、起伏の多い左サイド。斜面変化をあえて利用する戦略だ。ハマらなければミスになる。だから多くの選手が苦戦する。でも武田は、そのハードなバーンにエッジを深く切り込ませ、次元の違いを見せつけた。

284点──圧倒的な高得点に、大歓声が沸き起こる。追随するライバルを、一気に引き離した瞬間だった。

同じ種目で、武田に次ぐ高得点を叩き出したのが、齋藤圭哉だった。

技術選への出場は4回目。自己最高位は前大会の8位。今年は3位以内を目標に、この舞台にやってきた。

ところが、序盤がなかなか振るわない。「中斜面でスキーを走らせる技術が、自分には足りませんでした」と、ダイナミックコースで苦戦を強いられる。予選を終えて11位と、目標から遅れを取った。

それでも、あきらめる気はさらさらない。斜度がないところは難しくても、急斜面なら超得意。公式練習でもタイガーは自分にはとても相性が良かった。

「コーチの一樹さん(渡辺一樹)には、頑なに言われました。技術選は、とにかく粘り。自分の力を発揮できるまで、粘って、粘って、耐えるんだと」

その言葉どおり、耐えに耐えて迎えた決勝で、齋藤は躍動する。

1種目目、ダイナミックコースの大回りは、またも得点が伸びない。でも、これは想定内。齋藤が勝負をかけたのは2種目目、「小回り 急斜面 整地(ナチュラル含む)」だった。

「竜さんは縦目に切り込んでいく滑り得点を出していましたが、僕の持ち味はどちらかというと、幅を使った滑り。しっかりとバネを使って、横に出るスピードを見せたいと思いました」

それが、ハマった。ハードな雪にしっかりとエッジを噛ませ、力強いターンで281点を叩き出す。さらに残る2種目でも立て続けに高得点をマーク。見事な快進撃で、一気に駆け上がる。

いい戦いができている──。予選を終えて2位につけた奥村は、残る2日間をどう戦うか、考えていた。

首位の武田とは5点差。優勝を目指す上ではまずまずの位置にいる。最終日のスーパーファイナルは、ほとんどが自分の得意種目。だから今日の決勝は、トップと3点差くらいでついていけば狙える──そう思っていた。

1種目目、タイガーの小回りで278点とまずまずの出だし。続く2種目目の大回りでも順調に得点を重ねた。ところが、ここで奥村に揺さぶりがかかる。

「小回りで、竜さんに284点を出されてしまって……」

圧倒的な高得点。気持ちが途切れそうになった。でも試合は何があるかわからない。気を取り直して3種目目の「小回り 中急斜面 不整地」に臨む。

今年はコブには自信があった。ところが、変形したコブでバランスを崩すミス。269点──ここで奥村は、心の中で完全にスイッチが切れてしまう。

今年は優勝を目指していた。でも、もう無理だ──そう悟った瞬間、ふと思ってしまった。「優勝以外、何でもいいや……」

そんな奥村を、周囲が激励する。ここで雑にいったら、それまでの選手で終わってしまう。どれだけきつくても、粘れ。自分の滑りをして、やっぱり奥村はすごいって思わせろ──。

今年の大会で一つ、うれしいことがあった。それは、たくさんのギャラリーが、大歓声で迎えてくれたこと。去年、準優勝した奥村の知名度は、飛躍的に上がっている。今年も、絶対王者を倒す大本命でありたい──だから奥村はこの一年、SNSで積極的に発信し続けた。今年は優勝を目指す。だから、応援してほしいと。

その気持ちに、応えてくれた。滑るたびに湧き上がる喝采。まるで自分のホームにいるかのように。自分は、誰よりも応援されている──奥村の心の中で、再びスイッチが入った。

点数ばかり気にして滑るのは、もうやめよう。今、自分にできる最大のこと、それは応援してくれる人たちに、自分の一番の滑りを見せること──。

その日、最後の種目は「中回り 急斜面 整地(ナチュラル含む)」。すでに日も陰り、タイガーコースはいっそうハードになっていた。奥村は、その最高難度のバーンで、自分の持つすべてを出した。完全フルカービングで、ありえないぐらい角を立てて。誰も見せられない、谷回りの深さを出して。

気持ちで滑ったパーフェクトな一本で、種目別トップの280点──うれしかった。点数よりも、この苦しい場面で、この滑りができたことが。

心が震え、立ちすくむ奥村。そのゴーグルの奥で、感情があふれた。

決勝へきて人数が絞られたことで、武田と川上の滑走順は、前後に並んでいた。初日にトップと一点差になったことで、川上の中で少しずつ、優勝の2文字がちらつくようになった。

当然、自分の前を滑るチャンピオンを意識した。小回りでスタートした直後、武田の得点が聞こえてきたときは、耳を疑った。「284点、マジか…」

武田は安定的に高得点を重ねてくる。でも自分は得点に波が出てしまう。それでも川上は懸命に食らいついていく。

こうして決勝4種目を終え、抜け出したのは武田。それを奥村と川上が18点差の2位タイで追い、その後ろを齋藤がつけるかたちで最終日を迎える。

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