技術選に吹いた革命の風
ギア・アイテム技術選
開催62回を数える技術選の歴史。それはスキーテクニックの歴史であると同時に、マテリアル進化の歴史でもあった。その中でわれわれも、リアエントリーブーツやカービングスキーの登場など、エポックメイキングな出来事を目の当たりにしてきた。スキーが用具を使うスポーツである以上、マテリアルの進化はこの先も幾度となく繰り返されることだろう。
今年の技術選でも、あるマテリアル革命が大きな話題を呼んだ。BOA®システムを搭載したスキーブーツおよびK2スキーの本格的な復活だ。BOA®は、スノーボードブーツでは以前からポピュラーとなっていた機能だが、K2が世界で初めてスキーブーツに採用したのは数年前。当初はオールマウンテン用ブーツに採用され、操作の簡便さ、シェルそのものが足を包み込むような唯一無二のフィット感で高い評価を得てきた。そのBOA®が本格的なアルペン仕様のブーツにバージョンアップされ、技術選に参戦してきたのだ。同時にK2スキーも昨年から技術選に復活。かつてワールドカップシーンを席巻したアメリカの名レーサー、メイアー兄弟が愛用し、また技術選においても往年の名デモ沢田敦の愛機として知られた名機中の名機である。
今シーズン実戦投入されたのは、甲と足首の2つのBOA®システムを装備したデュアルBOA®ブーツ「コルテックス」と、ダークマターダンピングによる優れた振動減衰性能を誇るスキー「ディスラプション」シリーズだ。ともに技術選での使用に十分応える性能を保持しながら、一般ゲレンデでのクルージングにも適したオールラウンド性を特徴としている。とくに「コルテックス140」は、テックビンディングも使用可能となっており、フリーライディングの分野でも高い性能を発揮。そのパフォーマンスは、マックス・ヒッツィグがこのブーツを履いて、2024年フリーライド・ワールドツアーで優勝したことが証明している。
これらマテリアルを武器に、元デモンストレーターであり、全日本マスターズ技術選2連覇中の鈴木裕樹と、長くアルペンレースシーンで活躍し、今シーズンが2度目の技術選挑戦となる中村和司の二人が技術選に挑んだ。
BOA®とK2スキーの組み合わせはレーシーな滑りでも本領を発揮する
ずっとレースの世界にいたせいか、スキーもブーツもルーズで曖昧なフィーリングのものは使いたくないのですが、『コルテックス』も『ディスラプション』も僕の要求にしっかりと応えてくれる格別のしっかり感がありました。BOA®は、締め付けが弱いのではと思われるかもしれませんが、むしろ逆で自分が思うぶんだけタイトに締めることもできます。しかもバックルと違って締め付けの強さが段階的に変わるのでなく、ワイヤーがシェル全体の容積を調整し、足幅自体も可変するようになっているので、フィット感は抜群です。実際にGSを滑ったこともありますが、不安感などみじんも感じませんでした。また微調整がしやすいのも特徴で、滑りやバーンに合わせて最適の締め付けをスピーディに得ることができます。
『ディスラプション』シリーズは、これまで使ってきた『速さ』だけを追求したスキーとはまったく異なっていて、快適性の上に速さと鋭さが加わっている印象です。軽くて操作性が高いので、カービングもコブでも、また切れもズレも自由自在です。操作性が良いということは、細かいスキーコントロールにきちんと応えてくれるということなので、僕のように勉強中のスキーヤーには、正しい操作を教えてくれるスキーでもあります。自分の武器として、これ以上頼もしい存在はありません。
中村和司
なかむらかずし●秋田県出身。アルペンレーサーとして全日本選手権、FISレースなどで長く活躍。昨年、競技を引退し技術選への挑戦を表明。今大会が2回目の挑戦となる。今大会では、残念ながら決勝進出とならなかったが、そのポテンシャルはまだまだ未知数
爽快な滑走感は、まさにアメリカンカービングと呼ぶにふさわしい
今回は2年ぶりの全日本ということで少し緊張しましたが、マテリアルには何の不安もない状態で臨めたのでよかったです。今まではレース用のブーツを使ってきたのですが、それと比べてもまったく遜色ないというのが実感です。BOA®のおかげで調整が細かく効くので、その日の足の状態にも合わせやすいですし、技術選のようにさまざまな雪質、多くの種目を滑らなくてはならない大会では、BOA®の調整性能が大きなアドバンテージになっている気がします。
『ディスラプション』シリーズは、純競技用のスキーではないので、ロッカーがけっこう効いているモデルです。そのため、ガチガチのハードバーンになったら、やや弱いところも出てくるのかもしれませんが、通常のアイスバーンであれば、むしろコントロールしやすいと思います。また、カービングしているときの感覚が特徴的で、鋭さだけではなく滑らかさを感じるというか、『ああ、これはアメリカ製のスキーなんだな』って再確認させてくれるフィーリング。滑っていて、楽しいって心から感じられる乗り心地です。『コルテックス』も『ディスラプション』も、ものすごく未来的なマテリアルで、スキーヤーの挑戦意欲を盛り上げてくれるので、一般スキーヤーにとっては最適解と言えるでしょうし、同時に僕たち選手にとっても扱いやすさ、自在さという面で大きな可能性を提示してくれています。
鈴木裕樹
正確なスキーコントロールや美しいシルエットなどから、今も元デモンストレーターの貫禄を感じさせる鈴木裕樹。もともと雪質や斜面状況への対応力が抜群のスキーヤーだけに、今後はK2ニューマテリアルのポテンシャルをさらに引き出してくれそうだ