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目指したのは、多様な人々に、多様なスノーボードを届けること

インタビュー

SAJ3教程制作のキーマンに聞く③

平敷慶彦(スノーボード部ヘッドコーチ)

──まず、このタイミングで全面改訂に至った経緯から教えてください。

平敷 2025年にSAJが創立100周年を迎えるということで、歴史の一区切りで発刊しようというのがひとつ。また、「産業や教育、行政などと連携してスノースポーツの発展と、そのベースとなる環境保全に貢献し、グローバルな視野で組織的な対応を進める」といった方向性がSAJから示され、これにのっとった教則本が必要になったことから全面改訂に至りました。

──前作から8年。準備は着々と進められていたのでしょうか。

平敷 前作の『トータルスノーボーディング』は、限定的な手法や特定の斜面でのみ成立するスノーボーディングではなく、「山全体を滑走フィールドにする」ことがテーマでした。それをベースに生まれた指導者がデモンストレーターとなり、今回のモデルになっていることを考えると、8年かけて準備してきたと言っていいと思います。

──新教程では「ダイバーシティ(=多様性)」がテーマになっていますが、その理由は?

平敷 そもそもスノーボードは多様な文化背景から生み出されたスポーツで、サイドウェイスタンスのスポーツはもちろん、そのスポーツとともにあった音楽やファッションなどもミックスされ、さまざまなジャンルやスタイルを認め合い、融合と分化を繰り返しながら広まった経緯があります。そこに世界規模で多様性を理解しようとする気運と、社会活動のなかでのスノースポーツのあり方を考えたときに、「スノーボードダイバーシティ」という言葉が浮かびました。多様な人々に、多様なスノーボードを届けることを目標に掲げて進んでいこうと。また、2023年にフィンランドで開催されたインタースキーのレポートで、「日本の滑走技術の体系化は世界的に見ても抜きん出ているが、滑走の多様性とそれをベースにするフリースタイルの基礎技術が圧倒的に遅れをとっている」という報告があったことも理由のひとつです。スイッチライディングを早期に取り入れ、ジャンプやスピン技術をターンと同等に扱っている世界の潮流のなかで考えると、「スノーボードの多様性」はひとつのキーワードとなっています。

モデルも撮影クルーも真剣そのもの

──テーマ設定の変更に伴い、内容は具体的にどう変わったのでしょうか。

平敷 スノーボードの技術を高めていくことはもちろん大事なのですが、ターゲットを限定してしまうと、技術もそこに特化したものになってしまいます。そうなると、世界の流れに乗れません。そこで、これまでやってきたバッジテストを安全に楽しく滑るための基礎技術に位置づけて、その先の肉づけは滑り手が自由にカスタマイズできるように展開しています。大きな樹の幹が基礎技術で、どちらに枝を伸ばしていくのかは自分で決める。楽しみの方向性を自分で見つけて、発展させられる内容になっています。文部科学省の幼児期運動指針『36の動き』にフォーカスし、これをボード上の動きの要素として加えたことも、滑走に多様性を持たせる新しい試みのひとつです。

──滑り手を最大限に尊重する内容にアップデートされたわけですね。

平敷 はい。たとえば、子どもの運動能力の向上、競技や大会への取り組み、中高年のフレイル予防など、さまざまな人々の受け皿となり、そのうえで何を目標にするかの選択肢を多く持ち、それを達成するまでの道筋を自由に決められる内容になっています。ただ、自己表現のためであれば何をやっても自由というわけではなく、その場を共有する人々と安全に楽しく過ごすための基礎技術と雪上のルールが、スノーボードダイバーシティの大前提であり、本教程の背骨として存在します。システマチックかつ雪上ルールにのっとった基礎技術の向上は、他者をリスペクトする心を育むことにもつながることでしょう。

平敷HCが自ら滑り、イメージを共有するシーンも

──今回の全面改訂によって、滑り手にはどのような恩恵が期待できるのでしょうか。

平敷 スノーボードのあり方を限定しないこと、楽しみ方の多様性を広げられることが最大のベネフィットです。行き着くゴールがひとつではなく、スノーボードを行なう目的や目標の選択肢を無限に持つことができます。

──さまざまな人々の受け皿という点では、どのような広がりを期待していますか?

平敷 スノースポーツという枠に収まらず、スノーボードが大きな社会活動の一部として機能することを期待しています。スノーボードをツールとして、人の生涯に寄り添い、人と人とをつなぎ、自然と調和する。国内のみならず、国際交流の手段としても機能してくれればうれしいです。

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