山野井全「雪山では、いつだって表現者でいたい」
インタビュー
雪山を駆け巡ることこそが最大の自己表現
お気に入りのマテリアルで雪山を駆け巡るのは、僕にとってかけがえのない楽しみです。その喜びは、技術選のような試合であっても、今回の撮影のようなフランクな雰囲気のものであっても変わりません。考えてみれば、物心がついた幼少期から、ずっとスキーをしてきているわけですから、滑る感覚そのものは十分に身についているのですが、それでも滑るたびに新たな技術的発見があったりして、「そうか、自分の滑りはまだまだ発展途上にあるんだなあ」と思い知らされたりします。
二十歳のときに技術選に初挑戦した頃は、まだなんというか怖いもの知らずで、ただひたすらに自分のテクニックを見せつけたいという思いで滑っていました。ですが経験を積むにつれ、技術表現とはひとつではないことに気づかされましたし、それと同時に「自分の持ち味」とも能動的に向き合うことができるようになりました。
技術選は採点競技ですから、事前の情報収集も大切ですし、自分の個性とジャッジング基準に、どう折り合いをつけていくかが勝負になります。その中で僕の持ち味とは、求められる技術表現を満たしながら同時に自分の個性も出し切れるというところだと思うのです。どの選手もそうかもしれないけれど、「滑る楽しさをひたすら表現したい」、その思いは誰にも負けていないはず。僕にとって、雪山を駆け巡ることは考えうる最大限の自己表現であり、楽しみであり、やりがいを感じることができる時間なのです。
技術選と向き合いながら感じること
今思うと、22-23シーズンは、スキーのことだけを考え抜いた冬でした。そして迎えた本番でしたが、結果的にはやりたいことの半分も表現できなかったんです。いや、やりたいことを身体の動きとしてアウトプットすることはできたかもしれないけど、それをスコアに結びつけられなかったという意味で「表現できなかった」というか……。そういう意味では結果に対して、ふには落ちているんです。コーチの齋藤人之さんと一緒に作り上げてきた技術イメージの半分も出せなかったのに、身体の反応やパッション的な部分についてはそれなりに手応えがあった……、うまく言えないのですが、やはり自分の滑りをきちんと「表現できなかった」という意味で、中身がチグハグだったのでしょうね。
今の技術選シーンは、僕たちが参戦した当時から、またさらに若い世代の選手たちが台頭してきて、まさに熾烈な戦いになってきています。実際、僕から見ても彼らの滑りは「うまいなあ」と思わせられるし、技術的にも最先端のものだと感じます。僕たちの時代は「ジュニア技術選」の実力だけではまだ全日本で勝負にならないと言われていたけれど、今の若手たちは「ジュニア技術選」などで披露したテクニックを全日本に持ち込んで、成績を叩き出しています。僕らもいつまでも若手という枠ではなくなってくるし、若い力を余裕で受け止めるくらいの「懐の深さ」でいなくてはと思います。
表現する喜びを感じていたい
僕にとってスキーはマテリアルであると同時に雪山を駆け巡るための「乗り物」なんです。大会などでは、この乗り物の上からなるべく重心を離さずにエッジの食い込みをキープさせていく……、感覚的には滑っているというよりも「乗っていく」というイメージを狙っています。だから大会ではスキーと重心が必要以上に離れないように動いているんです。でもフリーで楽しむときの滑りだったら、思い切りスキーと重心との距離感を出して脚のストロークをいつもより大きく使ったり、いつもよりも高いポジションでひねりを入れたりします。
雪は1種類ではないから、滑りもそれに合わせてたくさん用意しておくことで、雪山を攻略する面白さは倍増します。技術選ではストイックにテクニックを追求していても、フリーでピステに飛び出したときにはスタイルにこだわらず自由に楽しめるスキーヤーでいたい、それが僕の「スキー表現」なのだと思います。加えて僕は、いつだって「映える」ことを意識しているんです。例えば写真でも、ただ奇麗でかっこいいだけの写りだったら満足できない(笑)。少しくらい内脚に乗っていても、このあと転んだんだろうなっていうタイミングでも、その一瞬がフォトジェニックであればアリです。僕にとってはターンが決まった瞬間も、リカバリーの一瞬も、「自分のスキー表現」という意味で価値は同じなんです。選手である以前に、ひとりのスキーヤーとして「表現する」喜びを常に感じていたい、そう思っています。
表現者として、さらなる成長を遂げて帰ってくる
技術選プレーヤーとしてやってきた以上、デモンストレーターという存在に興味がないと言ったら嘘になります。言ってみればデモンストレーターは技術の伝道者。テクニックや理論にみじんも隙があってはいけないし、何よりも一般スキーヤーの規範でなくてはいけません。自分がスキーヤーとしてその段階に手が届くのかと言われたら、まだまだ先のことのような気がしますし、まずは「表現者」としての自分をより突き詰めていきたいという思いが今は強いですね。
僕は、この春の技術選が始まる前の時点で、いったん技術選から距離をおくことを決めました。まだ学生ということで、しばらくの間は勉学に集中する判断を下したんです。とは言ってもシーズン中スキーは変わりなく続けますし、キャンプや撮影などの現場にも精力的に出ていきたいと考えています。そして技術的にも精神的にもしっかり充電と成長をして、全日本技術選の頂点を必ず取りたい。
それと同時に、多くの先輩たちがスキーの歴史の中に残してきた素晴らしい映像や写真、それらに近づけるような作品もたくさん作っていきたい。そういう活動も、僕なりの大切なスキー表現のひとつだと思うのです。
スキーが、雪山が大好きだからこそ、そこではいつだって滑る喜びを表現できるスキーヤーでいたい、そう思っています。
やまの・いぜん
1996年11月24日生まれ。北海道森町出身。幼少期よりスキーに親しみ、北海道のスーパージュニア戦線で活躍する。全日本スキー技術選には二十歳の時から通算7回出場し、最高位は男子総合6位。2023年は男子総合11位を記録したが、2025年の技術選については勉学のためにいったん距離をおくことを明言している