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SINANOの推進力

100年の歴史を誇るポールメーカー「シナノ」。

日本人の体格に合わせた設計に加え、トップスキーヤーからのフィードバックを製品づくりに取り入れ、滑走スタイルの変化に合わせてアップデートし続けてきた。

進化に向かって歩みをとめないシナノの“推進力”を、柏木義之と栗山未来に語ってもらう。

──まず、シナノとの出合いから教えてください。

柏木 僕は技術選に出て成績が出始めた頃、先代の社長から連絡をいただいて会うことになったのがはじまりです。東京駅八重洲口の喫茶店で、シナノが作っているポールのことやモノづくりに対する思いを聞き、僕が選手として活躍する中で「納得するものを作っていきたい」と話されました。そこから約20年ぐらいの付き合いになります。

栗山 私はシナノを使いはじめて4年目です。使うポールを変えるとき、シナノがいいなとパッと思いつきました。柏木さんが使っているイメージが強く、周りにも使用している選手がいたので一番信頼できるブランドでした。まず自分でポールを買って使い、そのうちシナノさんから声をかけていただいた形です。シナノの伸縮ポールは精度がよく、場面に応じて簡単にサイズ調整ができますし、デザインも豊富です。

柏木 伸縮のロックの話ですが、昔、パーツが緩んだとき毎回ドライバーで締めなおすのが面倒なので社長に挨拶に行ったときに「コインでできないんですか」と聞いてみたら「じゃあそうするよ」って。次のシーズンには「コインで回せる」という機能が伸縮ポールにプラスされていました。

栗山 え、あの機能って義之さんの要望でできたんですか? 私、コインで回せる機能で「絶対シナノがいいな」って思ったんです。

柏木 滑っていてロックが緩んだときに、ドライバーなんて持ち歩いてないからコインでできないかなと思って。シナノの対応の早さにはびっくりしました。要望は全部反映されるわけではないですが、「握るときここに押さえがあるといい」と伝えたらグリップ下が手を支えるような形状になったり。ときには「こういうものを作ったからテストしてほしい」という話もありました。だから、モノづくりというものを一緒に経験させてもらっています。

 

──滑りの進化の中でポールの使い方が変わったことは?

柏木 昔の滑りは重心が高いのに対し、今は低い。必然的にポールも短いほうが使いやすくなっています。技術選に出始めた頃は115㌢のポールを使っていて、それが今では整地は105㌢、コブだと95㌢。サイズはどんどん短くなっています。しかも昔はカーボンのストレートポールを使ってたから、ロング用、ショート用、コブと試合に3セット持っていかないといけなかった。それが今では1本で済むようになりました。

栗山 今考えるとすごいですよね。私はスキースクールで動画撮影を自分たちでしており、ウェーデルンやカービング、もっと細かい動きなど、滑りによってポールのサイズを変えています。ウェーデルン系は長め、カービングだとそれより短くしています。

柏木 気分で長さを変えたりする?

栗山 ありますあります。

柏木 撮影した映像を見て「あれ?今日はなんかポールが短く見える」とか。同じ斜面で同じ種目の練習だけど、「今日は1㌢長くしよう」とかあるよね。

栗山 撮影で滑りを見てなんか違うなって、よくサイズを変えてます。

柏木 ボーゲンとかシュテムとか指導種目をするときは重心が高くなるからポールを長くするし、こういう細かい使い分けは伸縮ポールじゃないとできないよね。

Yoshiyuki Kashiwagi

かしわぎよしゆき1975年生まれ、新潟県出身。幼少からアルペンスキーに打ち込み、1998年から技術選デビュー。翌99年に初優勝を果たす。2015年には史上初となる6度目の優勝を達成。苗場スキーアカデミー所属

Miku Kuriyama

くりやまみく1985年生まれ、富山県出身。2014年の技術選で総合6位を記録し、17年〜19年に技術選総合3連覇。22年にも優勝。SAJナショナルデモンストレーター認定5期。GALA湯沢スキースクール所属

シナノポールを20年以上愛用している技術選のレジェンド・柏木義之(左)と、「MIKU」のネームがデザインされたオリジナルポール作りに取り組んだ栗山未来(右)が、「SINANO」との出合いから使用感を語り合った

──一般スキーヤーに伸縮ポールの利点を伝えるとしたら?

栗山 レッスンで「カービングしたい」という生徒さんのなかにポールが長すぎる方がいます。カービングは身体を落として滑るため、長いと突いたときに身体が起こされちゃうんです。短く調整すると滑りも変化するので、ポールの調整は技術を変えていく方法のひとつだと思います。

柏木 昔はポールを逆さにして石突を握ってひじが90度が理想の長さといわれました。今はそれだとだいぶ長いかも。特にコブはポールが長いとひじが持っていかれちゃうし、重心も深く落とせない。

栗山 確かに昔のコブの滑りは手の動きが今とは違うかも。ポールが長いとコブを越えるとき1ターン1ターンの動きが止まってしまうので、短いほうがスピード出してどんどん谷に落としていけますよね。

柏木 20年前は急斜面を滑るなら、身体の落下に対してポールを前に突いて手首かえしてとめるというやりかたがメインでした。今の滑りは重心を落としていくからポールを外側に突いて身体をどんどん谷側に落としていく感じです。昔は、ポールはこぐときの杖や身体を支えるものとして使われていましたが、現代はバランスをとるとか、身体を谷に落とすとか、動きをスムーズにつなげるギアへと進化したんだと思います。

 

──伸縮以外にシナノらしい技術や商品はありますか?

柏木 僕は使ってないけどグリップエンドに重りを付けて振り出す速度やポールの重心の位置を変えられるアイテム(ジュニアのSL用商品「SLアタッカー」)がありますね。

栗山 へえ。使ってみたい。

柏木 「振り出しやすくなる」と使っている選手を見かけますよ。シナノはそういうかゆいところに手が届く商品を出してきますよね。ポールってスキーやビンディングのような大きな進化ってないけれど、それでも貪欲に何かを作りだそうとするシナノの姿勢はすごいと思います。

栗山 私はオリジナルポールを作りました。デザインは半分おまかせで、「白とピンク」がいいとか「MIKU」という字を入れたいとか、イメージを言葉で伝えるだけで、思い描いていたデザインが仕上がってきて感動しました。グリップやバスケットの色など何度もやりとりして完成したポールには私の「好き」が詰まっています。

 

──最後にシナノに対するそれぞれの思いを聞かせてください。

柏木 自分は100パーセント信頼して使っているし、社員の方々もポールに対する思い入れが感じられ、そういう人柄もいいと思っています。海外から輸入ポールが届いてそれを渡されて終わりじゃなく、人とつながっていられるんです。今後もいろいろな進化にトライしていいモノを生み出していってほしいですね。

栗山 私もシナノの「人」との関係がいいと思っていました。シナノのポールを使いはじめて年数は浅いですが、最初からフレンドリーでこちらの要望も真剣に聞いてくれるし、新人が活躍しているなど会社自体の雰囲気もいいんです。もちろん性能も満足していますし、使う側もハッピーになれるところが大好きです。

Miku’s Choice

(身長146㎝)

指導(低速)種目 103㎝
大回り 98㎝
小回り 86〜88㎝
コブ 87〜88㎝

伸縮タイプを使い、小回り系では80cm台ととくに短くしている栗山。カービングでは身体が起こされないように、ポールの長さを調整することを勧めている

Yoshiyuki’s Choice

(身長163㎝)

指導(低速)種目 110㎝大回り 106㎝
小回り 104〜105㎝
コブ 95㎝

伸縮ポールを使っている柏木。重心が高くなる指導種目では長めに、その他の種目では身体を谷側に落とす動きを妨げないように短めに設定しているという

写真:黒崎雅久 / 文:栗山ちほ / 撮影協力:ブランシュたかやまスキーリゾート