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HEAD JAPAN REBELS 反逆者たちが刻んだ成長の軌跡

ワールドカップ女子総合優勝やメーカー別タイトルを4年連続で獲得するなど、強さを見せつけたHEAD WORLDCUP REBELS。

負けず劣らず日本のヘッドチームHEAD JAPAN REBELSも各カテゴリーで暴れまくった。

有望レーサーが層をなすチームの活動を、レーシングディレクター・佐藤浩行とヘッドコーチ・滝下靖之に聞いた。

2023/24アルペン・ワールドカップの舞台における「ヘッド・ワールドカップレベルズ」は、ララ・グート=ベーラミ(スイス)がスーパーGとジャイアントスラローム(GS)、そして15/16シーズン以来2度目となる女子総合のタイトルを獲得。そのグートを最終戦で逆転したコルネリア・ヒュッター(オーストリア)がダウンヒルのクリスタルグローブを獲得した。男子ではヴィンセント・クリーヒマイヤー(オーストリア)がダウンヒル4位、スーパーGでマルコ・オーダーマット(スイス)に食らいついて2位となり、総合でも6位と7年連続でひと桁台をキープした。彼ら以外のレベルズの活躍もあり、ヘッドは4年連続でメーカー別ランキングのチャンピオンに輝いた。

 国内に目を移すと、日本のヘッドチーム「ヘッド・ジャパンレベルズ」はワールドカップシーン以上に暴れまくった。主なタイトル戦だけでも全国中学のGSでは男子が3名女子が6名、女子はスラローム(SL)でも6名と複数入賞。インターハイはGSで男子3名女子4名、SL男子3名女子5名。インカレGSは男子2名女子4名、SL男子4名女子3名で男子は二冠を獲得。国スポ(旧国体)では成年男子Aと成年女子Aでレベルズが優勝した。

そして国内最速を決める全日本選手権女子GSで大学1年生の切久保絆が堂々の優勝を飾った。切久保は中学1年からレベルズの仲間入りをし、昨年の全日本選手権GSでは高校生ながら4位に入るなど成長を見せてきた。同レースでは3位に大学4年の畠中悠生乃、技術的にも精神的にもチームを引っぱってきた荒井美桜が最後の全日本選手権で4位と3名が入賞、10位までに5人が名を連ねた。

男子では、小山陽平は海外遠征で不在だったが、社会人1年目の佐藤竜馬を筆頭にナショナルチームの山中新汰、ユースオリンピックSL4位の鎌田宇朗などが活躍。GSでは佐藤が4位、高木柊吾が6位に入賞し、SLでは山中が4位と全日本選手権自己最高位を記録した。

全日本選手権でセットのポイントを選手たちにアドバイスするヘッドコーチの滝下靖之(左)。チーム全体を統括するレーシングディレクター佐藤浩行は滝下に全幅の信頼を置く
韓国で行なわれた世界ユースオリンピック日本代表に選ばれ、SLでは4位の好成績をおさめた鎌田宇朗(角館高)。欧米選手に似たテクニックを持ち、23/24シーズンはFISポイントも大幅に更新。年代別SLランキングでは世界トップクラス。春からは早稲田大学に進学
全日本選手権女子GSで優勝した切久保絆は中学1年からチーム入りし成長。昨年の4位を上回り、大学1年でタイトルを獲得した
ヘッドチームで研鑽を続けた山中新汰(慶應義塾大学)はナショナルチーム2シーズン目。全日本選手権では男子SLで4位入賞と自己最高位を記録
社会人となった佐藤竜馬(札幌SS PRODUCTS スキーチーム)は全日本選手権男子GSで4位。ファーイーストカップ(FEC)ではスピード系でも好成績を残した
チーム在籍10年、今年レースシーンからの引退を表明した荒井美桜(サンミリオンSC)。最後の全日本選手権ではGS4位と力を見せた
今年の全日本選手権ではとくにGSでレベルズ女子パワーが爆発。トップ10に5名を送り出した

選手の引き出し、伸びしろを 培うプログラム

FISレースやSAJ公認大会を含めると、表彰台に立たなかったレースはないと言えるほど、圧倒的な存在感を示したレベルズ。その充実ぶりの要因をチームを統括するレーシングディレクターの佐藤浩行に聞くと、「やることをやってるから、ここまできたんです」と明快な答えが返ってきた。

登録選手が230名にもなる今では考えられないが、日本のヘッドにはチームというものがなかった。’09年に佐藤が担当となりチーム構想がスタートし、草の根活動で選手をスカウトして回った。数年かけてチームが形になってきたころに荒井や新井真季子が加入。17/18シーズンの小山に続き、向川桜子、大越龍之介がチーム入りし、層が厚くなると同時に勢いがついてきた。

そして’18年、ダウンヒラーとしてワールドカップやオリンピックに出場し、引退後は地元北海道でジュニアやユースの強化に当たっていた滝下靖之をヘッドコーチとして招聘。中学・高校世代の底上げを本格的に開始した。ここから〝滝下メソッド〟と言われる年間を通したプログラムによって、育成・強化が始まる。滝下によると、

「まず、主要大会が終わった4月からキッズ、ユース、ジュニアをメインにしたキャンプを、全国数カ所で行ないます。この時点でどんな陸上トレーニングや技術トレーニングを行なうのかを書面で可視化して、選手や保護者、私たちがオピニオンコーチと呼んでいる所属先のコーチたちに伝達します。それを各地域で集合して、夏のオフトレ合宿で実際に行ないます」

ひたすら磨かれ続けた各世代の原石たちが輝きを放ち始める

野澤雪丸(札幌第一高)は、鎌田など同年代で切磋琢磨しランキングを上げてきている大型選手。そのフィジカルを活かしたパワフルな滑りが魅力だ。年代部世界ランキングもトップクラスで、同じ大学に進学する鎌田とともにさらに滑りに磨きをかける
中学時代にタイトルを総なめにした大西美琴(足利大付属高)は、今シーズンのFEC総合優勝争いを終盤までリードした成長株の筆頭。まだまだ伸びしろは無限大
K2の伊藤瑠泉(札幌市立月寒中)は全国中学校スキー大会(全中)男子GSで3位、JOCジュニアオリンピックカップ(ジュニオリ)男子GSで7位の成績を残す
石水ほたる(北星学園女子中)は全中女子SLで優勝
小野里佳恋(高松中)はジュニオリ女子GS優勝
中学1年の原美空乃(佐久長聖中)は大器の予感
全中ではGS、SLそれぞれ6名のレベルズガールたちが入賞の快挙

夏のオフトレというと、ランニングやウエイトなど基礎的な身体作りをイメージするだろう。しかし滝下メソッドでは身体作りは各所属先に任せ、ヘッドチームではスキーに特化したトレーニングを行なう。スキーの技術面は滝下が担当し、フィットネスはナショナルチームでのトレーナー経験がある橘井健治が、マテリアルは大越や向川とともにワールドカップなどを転戦していた藤本寛と、それぞれ専門的な立場からバックアップしている。

「オピニオンコーチたちとも綿密に情報交換をして、合宿前後にそれぞれどんなことをしているか、どんなことをしたのかを互いに報告し合って共有しています。この陸トレを踏まえた上でピスラボなどのサマースキーで第2クールを行ないます。これも事前にテクニカルメソッドを配布して、選手たちにトレーニングの順番を覚えてもらっています。保護者やオピニオンコーチにとっては、それに目を通すことでトレーニングの進捗状況が分かるというメリットがあります。選手たちも現場に立って『次はこれ』と突然言われるのではなく事前に順番、内容、目的を理解した上で臨めます。なにより、せっかちな僕にとって効率が良いという点が最大のメリットです(笑)」

このテクニカルメソッドはチームとしてももちろんアップデートされ続けており、また、そこから一歩もはみ出さないということはない。さらにはオフシーズン、オンシーズン問わずSNSで選手と直接やり取りをすることで、個々のテーマもアップデートしていく。そこは「臨機応変」と「思いつき」との違いだ。このサマースキーでのトレーニングがとても重要で効果的だ、と滝下は考えている。

「気候的なことや経済的な環境から、夏に海外遠征することは難しくなっています。それが反映して早期にシーズンインできる日本のスキー場は非常に混雑して、スキーを履いてのトレーニングをその段階から始めたのでは、レースシーズンに間に合いません。サマースキーを行なうことで、実際の雪上での基礎練習は短くて済み、早々にゲートトレーニングができるのです」

実際の練習もスイスチームのプログラムを参考に、ターンの局面をいくつかに分けて番号を振り、ミスが出た番号の1つ前の局面に原因を求めて改善するという方法が取り入れられている。これは一例だが、小中学生にとっては非常に分かりやすいのだという。

「そこから所属先でのトレーニングを経てレースシーズンに入りますが、各年代の主要大会前にはヘッドチームとしても合宿を行なっています。連携はしていますが、あくまで所属先がメインでヘッドチームはバックアップ。選手たちが上のカテゴリーに上がったときにさらに成長できるよう、引き出しと伸びしろを培えるチームでありたいと思っています」(滝下)

一方、スカウティングからチームを作り上げてきた佐藤は、後方支援で力を尽くしている。

「もちろん現場に行きますが、コーチングのまとめは滝下に任せ、メーカーの人間として現場と会社をつないでいます。主に道具の供給面になりますが、アクシデントで代替スキーが必要な場合には直接送ってもらうなど、シームレスな対応を心がけています。レーシングは時間との勝負ですからね」

トップチームの下に層をなすように有望な次世代レーサーたちが控え、力をつけてきているのがヘッド・ジャパンレベルズの強み。そのことを誇りにそれぞれが目指す高みに向かって成長し続けることが、レベルズの証しだ。

全日本選手権を終えた荒井美桜を囲み選手、サポートメンバーで記念撮影。全員の「We are REBELS」の気持ちがチーム力になる
K1世代にもタレントがそろう。成田悠隼(玉越ストリーム)はジュニオリ男子SLで優勝
福井颯斗(玉越ストリーム)もジュニオリGS優勝。SLでも4位に入賞
女子の堤柚葵(三笠レーシング)はジュニオリGS優勝、SL準優勝と大活躍
ナショナルチームのトレーナー経験がある橘井健治など一流スタッフがキャンプや合宿に帯同
若い世代の育成・強化に力を注いできた滝下。大きな身体と大きな心で選手たちを包み込む
悩ましいシーズンを過ごしていた小山陽平(ベネフィットワン)がFEC参戦のために一時帰国。1日で2レースをこなし、2戦とも優勝。第1戦では小山敬之(日本大学)が0.06差の2位となり、兄弟でワンツー

写真:眞木 健・HEAD Japan / 文:眞木 健